書評

『クロス』(河出書房新社)

  • 2024/07/24
クロス / 山下 紘加
クロス
  • 著者:山下 紘加
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(160ページ)
  • 発売日:2020-04-16
  • ISBN-10:4309028772
  • ISBN-13:978-4309028774
内容紹介:
私はどちらの性で、どんな立ち位置で、彼を愛せばいいのだろう。警備会社で働く28 歳の「私」は、結婚していながら関係を続けていた浮気相手との悪戯をきっかけに、女性装にのめりこむ。スト… もっと読む
私はどちらの性で、どんな立ち位置で、彼を愛せばいいのだろう。
警備会社で働く28 歳の「私」は、結婚していながら関係を続けていた浮気相手との悪戯をきっかけに、女性装にのめりこむ。
ストッキングを履いたり、自らの手でメイクを施したりと女性性に寄り添うような生活は、「私」に新鮮な喜びと自由をもたらす。
あるとき女の姿で訪れたバーで、タケオと名乗る男に出会い、強烈に惹かれていくが――。
この数年、性的少数者を題材にした小説が増えている。それを書くことが当たり前になったのだ。

川上弘美『森へ行きましょう』や川上未映子『夏物語』のように性的少数者がさりげなく出てくる作品もあるし、千葉雅也『デッドライン』や本作のように、少数者であることそのもの、そこで生じる揺らぎや軋轢を主題にした小説もある。

本作は、主人公の「私」と「タケオ」のセックスシーンで始まる。恋人に「マナ」と呼ばれる「私」は、警備会社に勤める二十八歳の既婚男性だ。あることから女装の歓びに目覚めた彼が、女装をアイデンティティとし、性をクロスし(越え)ていく過程が描かれる。

「私」は恋人に愛されているかより、彼が本当に快感を得ているかが気になるという。「私」は配偶者にも以前の恋人にも、必要とされているか常に訝(いぶか)って不安を覚え、過剰な気遣いや性的奉仕に努めてきた。

「私」が自分と交わる場面がとりわけ官能的だ。「私」にとっての女は人に見せるより「女の自分」に会うためであり、最終的に越えるのは性ではなく自他の境なのではないか。究極の孤独がそこにある。
クロス / 山下 紘加
クロス
  • 著者:山下 紘加
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(160ページ)
  • 発売日:2020-04-16
  • ISBN-10:4309028772
  • ISBN-13:978-4309028774
内容紹介:
私はどちらの性で、どんな立ち位置で、彼を愛せばいいのだろう。警備会社で働く28 歳の「私」は、結婚していながら関係を続けていた浮気相手との悪戯をきっかけに、女性装にのめりこむ。スト… もっと読む
私はどちらの性で、どんな立ち位置で、彼を愛せばいいのだろう。
警備会社で働く28 歳の「私」は、結婚していながら関係を続けていた浮気相手との悪戯をきっかけに、女性装にのめりこむ。
ストッキングを履いたり、自らの手でメイクを施したりと女性性に寄り添うような生活は、「私」に新鮮な喜びと自由をもたらす。
あるとき女の姿で訪れたバーで、タケオと名乗る男に出会い、強烈に惹かれていくが――。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2020年5月23日

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