書評
『そのときは彼によろしく』(小学館)
「寄らば斬る!」じゃねーよ。おめえが勝手に寄ってきちゃ斬りかかってくるだけじゃんよ。寄ってくんじゃねっつーの。おっしゃるとおりでございます。何が哀しくて、わたくしのそばなんかに小説家のセンセイがたが寄ってこられましょうか。「ぐぉらあぁー!」っつって、いきなり斬られるかもしんないのに。でもオデだってさぁ、こう見えて鬼じゃないんだもの、近寄らないように気をつけてはいるわけですよ、そういう、なんつーの? 辻斬り欲を刺戟されるような物件には。だから、市川拓司さん、恨むんなら本誌・杉江を恨んで下さいまし。だって、杉江が依頼してきたんだすわね? 「もうすぐ本屋大賞が発表されるんで、最終ノミネート十作品を読んで、大森望さんとネット上でメッタ斬って下さいよー」って。その中に市川さんの作品も入っていたんだすわね? だすから、読んだだけだすわね? だすわよ。
『そのときは彼によろしく』の冒頭部分でございます。オデの長年の友人であるフリー編集者のアライユキコは呟きました。「ドードー鳥とライカ犬がかわいそう」
まったくでございます。あのねー、ライカ犬は地球の周りをぐるぐるまわりながら、一週間後には死んじゃったのね。きっと飢餓と宇宙酔いに苦しみながら、恐怖におののいた目をしてたんだと思うよー。〈澄んだ目〉とかって、人間の勝手な都合で美化しちゃいけないと思うなー。この手の不用心かつ臭い比喩の連発に辟易させられる小説なんですの。比喩の多用は諸刃の剣だから、ナボコフとか金井美恵子、せめて村上春樹クラスの文才がないんなら、やんないほうがモア・ベター。実際、頭のいい現代作家は比喩を避けるためにそれなりの苦労を引き受けてるわけです。
さらに――。
(トヨザキ註=主人公が子供の頃から好きだった女の子と初めてセックスに挑もうかというシーンで、彼女から避妊の用意をしてるかと問われ、「してないよ」「砂漠の住人が傘を持たないのと同じさ」と受けて後の展開)
この引用をはじめ、村上春樹作品のどこかからコピペしてきたんじゃないかと思いたくなるようなシチュエーションと会話とキャラクターがてんこ盛り(なんと、この本の二ヶ月前に出た『アフターダーク』とも一部設定がシンクロしてるんですの!)。思うんですけど、日本文学のジャンルに新たに「村上春樹」ってのを作ったらどうですかね。書店でも「ミステリー」の横に「村上春樹」の棚を置いて、そこには本家だけでなくそのチルドレンの作品も並べてあげんの。だって、日本人は村上春樹的世界が大好きなんだから、そういうジャンルを作ってあげれば本を買う時悩まなくて済むんだすわね。だすわね。……が、しかし、そんな一本調子なブンガク情況はつまらない。村上春樹は一人でいい。そっと野におけ春樹節、なんである。
【この書評が収録されている書籍】
彼はひどく風変わりな少年だった。
まるであの絶滅への道を歩んだドードー鳥の最後の1羽みたいに、失われてしまった人間の美徳である何かを、たったひとりで継承していた。すごく無垢で、だからとても傷つきやすくて、宇宙ロケットで地球の周りをぐるぐるまわったライカ犬のように、彼は澄んだ目で世界を見渡していた。
『そのときは彼によろしく』の冒頭部分でございます。オデの長年の友人であるフリー編集者のアライユキコは呟きました。「ドードー鳥とライカ犬がかわいそう」
まったくでございます。あのねー、ライカ犬は地球の周りをぐるぐるまわりながら、一週間後には死んじゃったのね。きっと飢餓と宇宙酔いに苦しみながら、恐怖におののいた目をしてたんだと思うよー。〈澄んだ目〉とかって、人間の勝手な都合で美化しちゃいけないと思うなー。この手の不用心かつ臭い比喩の連発に辟易させられる小説なんですの。比喩の多用は諸刃の剣だから、ナボコフとか金井美恵子、せめて村上春樹クラスの文才がないんなら、やんないほうがモア・ベター。実際、頭のいい現代作家は比喩を避けるためにそれなりの苦労を引き受けてるわけです。
さらに――。
(トヨザキ註=主人公が子供の頃から好きだった女の子と初めてセックスに挑もうかというシーンで、彼女から避妊の用意をしてるかと問われ、「してないよ」「砂漠の住人が傘を持たないのと同じさ」と受けて後の展開)
「あなたのセックスライフってどんなもの?」
「14歳の頃とさして変わらないよ。まあ、ごくまれに何かの気紛れで大人のつき合いが生じることもあったけど」
「砂漠の雨のように?」
「そう、砂漠の雨のように」
この引用をはじめ、村上春樹作品のどこかからコピペしてきたんじゃないかと思いたくなるようなシチュエーションと会話とキャラクターがてんこ盛り(なんと、この本の二ヶ月前に出た『アフターダーク』とも一部設定がシンクロしてるんですの!)。思うんですけど、日本文学のジャンルに新たに「村上春樹」ってのを作ったらどうですかね。書店でも「ミステリー」の横に「村上春樹」の棚を置いて、そこには本家だけでなくそのチルドレンの作品も並べてあげんの。だって、日本人は村上春樹的世界が大好きなんだから、そういうジャンルを作ってあげれば本を買う時悩まなくて済むんだすわね。だすわね。……が、しかし、そんな一本調子なブンガク情況はつまらない。村上春樹は一人でいい。そっと野におけ春樹節、なんである。
【この書評が収録されている書籍】
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