書評

『平安貴族の住まい: 寝殿造から読み直す日本住宅史』(吉川弘文館)

  • 2024/06/10
平安貴族の住まい: 寝殿造から読み直す日本住宅史 / 藤田 勝也
平安貴族の住まい: 寝殿造から読み直す日本住宅史
  • 著者:藤田 勝也
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(240ページ)
  • 発売日:2021-03-19
  • ISBN-10:4642059202
  • ISBN-13:978-4642059206
内容紹介:
平安貴族の住宅様式である寝殿造。複数の建物配置が寝殿を中心に左右対称であるのが特徴とされながら、建物は現存せず実像は謎につつまれている。はたして寝殿造とは何か、その本質はどこにあるのか。遺構や絵巻、史料から貴族の住宅を通覧し、寝殿造の通説を徹底検証。院政期における建物・空間の変容を探り、これまでの住宅史に一石を投じる。

幻想が生んだ〝常識〟覆す

平安時代の貴族は寝殿造(しんでんづくり)の館を営んだと、われわれは学校で教わる。それは、南側へ広がる庭へ向かい、殿舎が左右対称に構成されていた。あるいは、シンメトリカルな(均整がとれた)配置を、目指していた。以上のようにも、学んできたはずである。
しかし、実際にはそうでもない。対称的であったという議論を持ち出したのは、江戸時代の国学者である。それは、数百年後に浮上した歴史語りであった。平安時代への幻視がもたらした指摘であったと、言うしかない。だが、今でも一般的な寝殿造の解説は、この幻にとらわれている。そこは改められるべきだと、著者は立ち上がった。
見直されなければならない寝殿造像は、まだある。貴族の住居であった寝殿造は、室町時代に崩れていく。変わって、武家に担われた書院造(しょいんづくり)が、出現した。以後は、そちらが大勢を占めるようになる。私たちの教科書は、そんな風にも事態の推移を説明する。しかし、これも実際の住居変遷史には、そぐわない。
寝殿と対屋(たいのや)で前庭を囲う。寝殿造の肝と言うべきこの館構えは、江戸時代末期まで維持された。事実、京都御苑内にあった摂関家の屋敷は、そのスタイルを保ち続けている。けっして、途絶えてはいない。
ただ、院政期を迎えた頃から、貴族の住宅は、様々な変化をこうむった。とりわけ奥向きの居処では、時代に即応した新機軸を取り入れている。その過程で、のちの書院造にもつながる座敷飾りの数々は、生み出された。書院造が営まれる母胎に、寝殿造のあったことは、疑えない。
しかし、そういったしつらえは、みな寝殿造の周辺部分にあらわれた。中枢にあたる寝殿へは、およんでいない。書院造へと発展する要素は、言ってみれば寝殿にできたタンコブのようなものである。書院造は、このタンコブが自立して成立した形式にほかならない。
寝殿造の展開を、平安期だけにとどめず幕末期まで見すえた好著である。

[書き手] 井上 章一(いのうえ しょういち・国際日本文化研究センター所長)
平安貴族の住まい: 寝殿造から読み直す日本住宅史 / 藤田 勝也
平安貴族の住まい: 寝殿造から読み直す日本住宅史
  • 著者:藤田 勝也
  • 出版社:吉川弘文館
  • 装丁:単行本(240ページ)
  • 発売日:2021-03-19
  • ISBN-10:4642059202
  • ISBN-13:978-4642059206
内容紹介:
平安貴族の住宅様式である寝殿造。複数の建物配置が寝殿を中心に左右対称であるのが特徴とされながら、建物は現存せず実像は謎につつまれている。はたして寝殿造とは何か、その本質はどこにあるのか。遺構や絵巻、史料から貴族の住宅を通覧し、寝殿造の通説を徹底検証。院政期における建物・空間の変容を探り、これまでの住宅史に一石を投じる。

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初出メディア

京都民報

京都民報 2021年4月25日

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