短歌→散文→短歌の魅力
九螺(くら)ささら、という歌人の名前を、いろんなメディアで眼にするようになったのはいつ頃のことだろう。気になる短歌を作る人、という印象だ。この本は歌人の初の著作。歌集、とはにわかに断定しがたい、魅力的な本に仕上がった。
まず、テーマに沿った短歌がひとつ、掲げられる。関わりのある散文が少しだけ続く。そして、別の短歌で締めくくる。
たとえば「住所」というテーマ。「京都府京都市左京区宇宙町無重力坂永遠ニ上ガル」が最初の短歌。京都の住所の面白さ・不思議さから始めて、魂は常に住所不定なのだ、と結論づける。結びの歌は、「履歴書の住所の欄に『蜃気楼』と書いた社員が五月病になる」。ありそうな話。