短歌が空前のブームになっている。その原因の一つに情報技術の進歩が挙げられる。短歌といえば、かつては師を探し、歌詠みのコツを身に着け芸を磨くのが王道であった。近年、ネット空間は作品発信のハードルを一気に低くした。もはや上手下手を気にすることはない。歌を詠みたくなれば、誰でも三十一文字にすることがでる。不特定多数向けに発信された短歌は見知らぬ者に読まれ、あわよくばコメントや感想が返ってくることもある。顔が見えないゆえの気軽さもあって、技巧云々よりも、やさしい言葉で率直な感情表出に関心が向けられている。
このように、ひと昔前に比べて短歌をめぐる状況は大きく変容した。「伝統」にばかり目を向けるのではなく、現在の情報を伝えようとしたところに本書の斬新さがある。
ネット空間の事情はいうまでもなく、新聞や雑誌に投稿された短歌の変化、選歌の舞台裏、教科書に採用された短歌、結社の歩みと現状、歌会の進め方、歌集の出版など、およそ現代の短歌をめぐるあらゆる場面について詳細な紹介が行われている。短歌のことに興味がなくても面白く読める一冊だ。