書評

『百万遍 青の時代〈上〉』(新潮社)

  • 2024/07/26
百万遍 青の時代〈上〉 / 花村 萬月
百万遍 青の時代〈上〉
  • 著者:花村 萬月
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(527ページ)
  • 発売日:2006-08-29
  • ISBN-10:4101013276
  • ISBN-13:978-4101013275
内容紹介:
今日、三島が死んだ。俺は高校を辞め、教護院から放逐された。1970、あてどない漂流が始まる。衝動を持てあまし、世界との齟齬を感じながらも、俺は小器用に大人たちと渡りあってゆくことができた。そんなある日、俺は幼馴染の女と再会する。ささやかな幸せに満ちた同棲生活。しかし俺は、刹那を生きるアウトローたちとの暮らしこそを、望んだのだ。花村萬月、入魂の自伝的長篇。

転がり続ける凄絶な自伝

自伝である。時は一九七〇年。三島由紀夫が割腹自殺を遂げた日、主人公の惟朔は高校を退学する。強引だったが可愛がってくれた父親を失ってから暴力を抑えきれなくなった惟朔は教護院に入れられ、母親とも疎遠になっていた。日常生活の時々に垣間見せる能力の高さを買われて特権的に通学を許可されていた惟朔だったが、高校を去ると同時に教護院も追放になる。

行き場をなくし、いかに自分が守られていたかを痛感する若者がいる。ふらふらと渋谷に赴き、粗悪なモデルガンを手に入れる。惟朔が頼るのは、施設での知り合いで、いまは町工場で働く山村。だが山村が盗んだナナハンで走っている際、持ち主に遭遇。手ひどく殴りつけてしまった惟朔は、迷惑がかかるのを避けて結局山村の部屋を離れ、幼馴染の幸子のところへ転がり込む。トルエンで前歯が溶けてしまっていた惟朔の歯を治療するのだと、身を粉にして働く幸子との生活を楽しんでいるかに思えたが、安楽な場所にじっと動かずにいることはできなかった。

幸子の全財産を盗んで出奔。覚醒剤を扱うヤクザたちの環境に身を置く。だが彼らの言語感覚、金銭感覚に肌の合わない感じを拭いきれない惟朔は、松山乳業で牛乳配達を始める。カタギになろうと思ったわけではない。彼らのどうしようもなさと一線を画する潔癖さがどこかに残っていて惟朔を突き動かしていた。だが牛乳を配達する規則的な生活も長くは続かない。偶然眼にした背中の彫物に魅惑された主人公は、彫清の名人芸に惚れ込んでしまう。

とにかく、舞台はくるくると変わる。押し込められていた高校と教護院から解き放たれた主人公は、自由を求めてさまよう。女を騙し、飽くことない性愛に溺れ、ドラッグに身をぼろぼろにしながら、移動し続ける。三島由紀夫もベンチャーズもグランド・ファンクもVANも、そう、何でも出てくる。惟朔は全くの世間知らずとして描かれ、何でも吸収する。転がり落ちながら何色にも染まっていく。虚構のオブラートに包まれてはいるものの、この「自伝」の凄絶さに圧倒される。
百万遍 青の時代〈上〉 / 花村 萬月
百万遍 青の時代〈上〉
  • 著者:花村 萬月
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(527ページ)
  • 発売日:2006-08-29
  • ISBN-10:4101013276
  • ISBN-13:978-4101013275
内容紹介:
今日、三島が死んだ。俺は高校を辞め、教護院から放逐された。1970、あてどない漂流が始まる。衝動を持てあまし、世界との齟齬を感じながらも、俺は小器用に大人たちと渡りあってゆくことができた。そんなある日、俺は幼馴染の女と再会する。ささやかな幸せに満ちた同棲生活。しかし俺は、刹那を生きるアウトローたちとの暮らしこそを、望んだのだ。花村萬月、入魂の自伝的長篇。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2004年1月4日

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