書評

『そして生活はつづく』(文藝春秋)

  • 2017/08/01
そして生活はつづく  / 星野 源
そして生活はつづく
  • 著者:星野 源
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(204ページ)
  • 発売日:2013-01-04
  • ISBN:4167838389
内容紹介:
携帯電話の料金を払い忘れても、部屋が荒れ放題でも、人付き合いが苦手でも、誰にでも朝日は昇り、何があっても生活はつづいていく。ならば、そんな素晴らしくない日常を、つまらない生活をおもしろがろう。音楽家で俳優の星野源、初めてのエッセイ集。巻末に俳優・きたろうとの文庫版特別対談「く…そして生活はつづく」も収録。

コンプレックスを引きずって

顔がいいわけではないし歌唱力も微妙なのになぜ人気者? そう思っていたが、昨年末の紅白歌合戦を観(み)て転じた。「こんばんは星野源です」と歌い出す。紅白出場歌手の顔と名前くらい誰でも知っているだろうに変な男だ。だがこれを機に筆者は星野源に興味を覚えた。

星野源は、現代のトップスターである。出演した連続ドラマは高視聴率をとり、ダンスは社会現象となり、歌手として紅白歌合戦に2年連続で出場している。ただし人気の理由は、簡単には説明し難い。近所のお兄さん的な魅力、草食系の時代、そんな分析では納得できない。

書籍も出せばヒット。ブレークする少し前の2013年(単行本は09年)に刊行されたエッセー集からは、彼が愛される理由が見え隠れする。

少年時代は親から「あんたは不細工で足が短くて、特徴もない」と言われ続けた。「目立とうなどという向上心」のない普通の子だったという。この手の自分を卑下する告白は、多くの場合むしろ鼻につく。だが星野源の場合は、納得させられる。さもありなん。

一冊を貫くテーマは「生活をいかに楽しむか」。星野源は「生活」が苦手だ。具体的には、携帯の料金を払い込むことや便器をきれいにすることなど。彼は、「生活」からの「逃避」として映画や音楽に夢中になる。今の生業は、逃避の結果なのだという。だがそれでも生活は避けられない。この辺りは、ヒット曲「恋」の「暮らしがあるだけ」の歌詞と結びつく。

秀逸なのは、3人で道を歩いていると「大抵二人と一人の構図に」なり、「その場合私は後者になる」というくだり。目立たない自分、人に覚えてもらえないコンプレックス。星野源の魅力は、現在もまだそれを引きずっているように見えるところだ。紅白歌手なのに「こんばんは星野源です」といってショーを始める微笑(ほほえ)ましさ。それが星野源の魅力である。
そして生活はつづく  / 星野 源
そして生活はつづく
  • 著者:星野 源
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(204ページ)
  • 発売日:2013-01-04
  • ISBN:4167838389
内容紹介:
携帯電話の料金を払い忘れても、部屋が荒れ放題でも、人付き合いが苦手でも、誰にでも朝日は昇り、何があっても生活はつづいていく。ならば、そんな素晴らしくない日常を、つまらない生活をおもしろがろう。音楽家で俳優の星野源、初めてのエッセイ集。巻末に俳優・きたろうとの文庫版特別対談「く…そして生活はつづく」も収録。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2017年1月29日

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