書評
『今夜、笑いの数を数えましょう』(講談社)
答えを出すことではなく議論するのが面白い
いとうせいこうが、倉本美津留、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、バカリズム、枡野浩一、宮沢章夫、きたろうの6人と「笑い」について語り尽くした一冊。それぞれの対談に通底するのは、予想外の方向へ転がっていく自由度が笑いを膨らませる、との着眼で、一つの「オチ」を正解として定める笑いを警戒する。「ノーマークは笑いを生む」「相手がまったく理解できていない時ってホントおもしろい」(いとう)、「ワケのわからないことがとにかく面白かった」(バカリズム)、「本質と別のところで何かが起こることを、我々は面白がる」(宮沢)と語るように、こうすれば笑いがとれる、ではなく、こんなになっちゃったから笑えた、という余白をいかに残していくかを考える。最後に登場するきたろうが、「笑いを語るってカッコ悪いよね」と切り出し、ひっくり返す。
最近のバラエティー、という括(くく)り方も乱暴だが、芸人と視聴者とが笑いの最適解を求めた結果、確かめ合う笑いが目立つ。「ここはこうやろ!」と突っ込まれる場面を頻繁に見かけるが、ここはこうではなくてもいい、を許した時に、いくらだって面白くなっていくのだと思う。
バカリズムが「想像の余白」が面白い、たとえば「3x=犬」でもいい、とする。その式を見て、「あり得ない」で終えたらつまらない。3に何かを掛ければ犬になる。そのxをめぐって議論するのが面白いのだし、最後までxの答えが出なくてもいい。とにかく、どうすれば犬になるのか、いつまでも考えてみる。
笑いのノウハウがあるとすれば、ノウハウがあると思っているのが一番ヤバイと気付けるか、ではないか。「笑いとは何か」を探るはずの対談のそれぞれが、たちまち主題から脱線していく様が、とにかく笑える。
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