書評

『ピアノを尋ねて』(新潮社)

  • 2026/02/18
ピアノを尋ねて / クオ・チャンシェン
ピアノを尋ねて
  • 著者:クオ・チャンシェン
  • 翻訳:倉本 知明
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(176ページ)
  • 発売日:2024-08-29
  • ISBN-10:4105901966
  • ISBN-13:978-4105901967
内容紹介:
天賦の才能をもちながらピアニストの夢破れた調律師の「わたし」は、若い妻を喪った初老の男性、林サンと出逢う。亡妻の残したピアノをめぐって二人の運命は絡み合い、やがて中古ピアノの販売… もっと読む
天賦の才能をもちながらピアニストの夢破れた調律師の「わたし」は、若い妻を喪った初老の男性、林サンと出逢う。亡妻の残したピアノをめぐって二人の運命は絡み合い、やがて中古ピアノの販売事業を手掛けるため、運命の地ニューヨークへたどり着く…。シューベルト、ラフマニノフ、リヒテルやグールドといったクラシック音楽の巨匠たちが抱えた孤独が綴られた本作は「聴覚小説」と評され、台湾文学金典奨をはじめ主要な文学賞を総なめにしたベストセラー。

人生の痛み 呼び覚ます音楽

魂を恍惚(こうこつ)とさせる音楽は、生まれたと思うと宙に舞って、観客の耳に届く。

音楽は、場所を占有しない。けれども、音楽を生むのは、演奏家と楽器である。巨大で重いスタインウェイのピアノや高価で希少なストラディバリウスのヴァイオリンがあって、はじめて自由きわまりない芸術が誕生する。

現代台湾の作家、クオ・チャンシェンの『ピアノを尋ねて』は、演奏家をめざしていたが教育者へと転じた亡き妻メアリーをめぐる物語である。実業家の男、林(リン)サンは、失った妻が主宰していた教室の閉鎖を考えている。演奏家になることを諦めて調律師になった「わたし」は、調律に行った先のピアノで、練習を続けている。林サンの自宅に残されたスタインウェイの調律をめぐって、ふたりの人生が交錯する。ニューヨークへの旅は、ふたりの過去を呼び覚まし、翳(かげ)りのある調子で進んで行く。

また、グレン・グールドやスヴャトスラフ・リヒテルのような名演奏家たちのエピソードも並行して語られる。一握りの天才でさえも、デビュー時代の若さはいつか失われる。その人生はときに哀(かな)しみに満ちている。音楽の華やぎや情熱の裏側に、だれにも等しく訪れる老いが待っている。

風采があがらなかった作曲家フランツ・シューベルトの人生を「わたし」は振り返る。彼は九つの交響曲や名高いピアノソナタや歌曲を残した。「ひょっとしたら、彼が追い求めていたのはその名を世界に轟(とどろ)かすことなどではなかったのかもしれない。空虚さや愛欲の渇きを満たすことのできない不全感と向き合うために、彼はこうした創作を後世に残したのではなかったか」

芸術には、成功を求める欲望が眠っている。けれども、その野心が成就したとしても、幸福が約束されるはずもない。クオ・チャンシェンは、この主題を繰り返し語る。音楽周辺の知識は、小説を味読するための必要条件ではない。主題は人間として生きることの痛みへと届いているからだ。
ピアノを尋ねて / クオ・チャンシェン
ピアノを尋ねて
  • 著者:クオ・チャンシェン
  • 翻訳:倉本 知明
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(176ページ)
  • 発売日:2024-08-29
  • ISBN-10:4105901966
  • ISBN-13:978-4105901967
内容紹介:
天賦の才能をもちながらピアニストの夢破れた調律師の「わたし」は、若い妻を喪った初老の男性、林サンと出逢う。亡妻の残したピアノをめぐって二人の運命は絡み合い、やがて中古ピアノの販売… もっと読む
天賦の才能をもちながらピアニストの夢破れた調律師の「わたし」は、若い妻を喪った初老の男性、林サンと出逢う。亡妻の残したピアノをめぐって二人の運命は絡み合い、やがて中古ピアノの販売事業を手掛けるため、運命の地ニューヨークへたどり着く…。シューベルト、ラフマニノフ、リヒテルやグールドといったクラシック音楽の巨匠たちが抱えた孤独が綴られた本作は「聴覚小説」と評され、台湾文学金典奨をはじめ主要な文学賞を総なめにしたベストセラー。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 :2024年10月5日/ 中日新聞:2024年10月6日

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