書評
『作家は移動する』(新書館)
豊饒な言語表現呼び覚ます
いまの日本には、移動を余儀なくされる作家はいないかもしれない。やむにやまれぬ、文学以外の理由から、日本ではない土地に住み続けている作家はたぶんかなり少ないだろう。だが、ちょっと考えてみよう。楊逸やシリン・ネザマフィといった日本語を母語としない作家たちが、どれだけ豊かな日本語文学を生み出していることか。
同じことを外国に視点を置いて考えてみると、ドイツ語で書く多和田葉子や日本語で書くリービ英雄は、それぞれの言語に計り知れない豊饒(ほうじょう)さを与えているのだ。
文化人類学者・青木保は、江藤淳の『作家は行動する』を十分に意識しながら、「作家は移動によって行動する」という命題を提出している。
扱われている作家は六人。先に挙げた多和田、リービ以外には、堀江敏幸、宮内勝典、池澤夏樹、そして村上春樹だ。
作品世界の中に入り込み、縦横に引用し、その世界を踏破している。引用文は、オリジナルから切り離されているのに、青木の文章の中で生き生きとしている。このあたり、さすがの手腕である。読者の目線にこだわった現代文学論。
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