書評
『隠し事』(河出書房新社)
「他人の秘密知る」ユーモア交じえ
同棲(どうせい)する彼女のケータイを覗(のぞ)いたことがない主人公は、彼女の入浴中にケータイにメールが届いた瞬間、ふと覗き見てしまう。そこには見知った男の名前が……。あまりにベタな展開だと思われる方も多いだろう。じじつ私もそう思いつつ読んでいた。
だが展開は少しずつこちらの予想をいい意味で裏切るものだった。
フラットな部屋でなんら隠し事なく暮らしていたはずの2人。だがケータイのメール以後、振り払えない疑念をきっかけに世界はまったく別の姿になってしまう。主人公は、執拗に、しかもばかばかしいくらいに秘密に執着してしまうのだ。
隠し事をめぐるあれこれをそれこそ執拗に描いた小説の代表は、谷崎潤一郎の『鍵』だろう。羽田圭介のこの小説にも、谷崎の影響は感じられる。そして谷崎の後にこの小説を書く以上、その先が探求されてもいる。
他人の秘密に触れたくなる気持ちはどんどん空回りして、およそナンセンスな境地にまで至る。そのことを克明にかつユーモア交じりに仕上げている。去年、就活を描いた小説『ワタクシハ』で話題になった作家は、確実に腕をあげている。
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