書評
『葦舟、飛んだ』(毎日新聞社)
戦後に生まれた作家の真摯
ある夏、登場人物の一人、道子がスズメバチに刺されて死んでしまう。幼馴染(なじみ)だった雪彦、達夫、笑子、昭子、理恵は、50年ぶりに付き合いを復活させる。ほぼみんな60の坂を越えている。それぞれ老いた親を抱えていたり、離婚を経験したり、子どもたちの人生を心配していたりする。
だが一点だけ、彼らに共通していることがあった。過ごした小学校の記憶のなかに、謎としか思えない事柄があった。転校してきて3カ月しかいなかったヒロシくんはいったい誰だったのか。亡くなった道子が秘匿していた、ニューヨークに住む「サーシャ」とは誰なのか……。
戦争とその記憶をめぐる物語である。とりわけシベリアや満州に関する記述には、津島氏が参照した書物から様々な形で知識や事実が流れ込んでいる。小説はそのすべてを包み込んで、ひとつの物語を縫い上げている。見事である。
登場人物たちは、戦後すぐに生まれた年代だ。彼らの年齢と「戦後」は等号で結ばれる。戦争を経験しなかった世代の作家が、戦争小説を書く。その、もっとも倫理的な書法がここにある。
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