書評

『アメリカ・ハードボイルド紀行 ――マイ・ロスト・ハイウェイ』(研究社)

  • 2018/07/12
アメリカ・ハードボイルド紀行 ――マイ・ロスト・ハイウェイ / 小鷹 信光
アメリカ・ハードボイルド紀行 ――マイ・ロスト・ハイウェイ
  • 著者:小鷹 信光
  • 出版社:研究社
  • 装丁:単行本(363ページ)
  • 発売日:2011-11-22
  • ISBN:4327481580
内容紹介:
"アメリカ"を集め続けて半世紀。ハードボイルド探偵小説、フィルム・ノワール、西部劇、メンズ・マガジン、ルート66、ポストカード、ロードマップ-路上も紙上もスクリーン上も縦横に旅して手に入れた"著者のアメリカ"のすべて。

微細なハメット作品考察が圧巻

著者は、高校生になった1950年代の前半から、戦後闇市時代に洗礼を受けたアメリカ文化の研究に、のめり込んでいく。

手始めは、西部劇映画の新聞広告を、細大漏らさず切り抜いて、ノートを作ることだった。その根気とうんちくに、まず驚かされる。この切り抜き帳は、西部劇の歴史を語るに当たって、欠かせぬ文化遺産(!)になるだろう。

映画については、もう一つフィルム・ノワールの研究、分析がある。〈ハードボイルド〉と同様、〈フィルム・ノワール〉という呼称が、ジャンルではなく表現様式、技法を指すとの指摘も、怠りなく紹介されている。これは、一般に考えられているよりも、はるかに重要な指摘である。 ダシール・ハメットの『マルタの鷹(たか)』の再映画化で、ハンフリー・ボガートが扮したサム・スペードの役は、当初ジョージ・ラフトが演じる予定だった、という。もしラフトのままだったら、その後のボガート人気は、生まれていなかったかもしれない。

ハメットは、ハードボイルド派の始祖として、近年再評価されつつある作家だが、著者はハメット研究の先駆者として、本書でも多くの筆を費やしている。そのキャリアは、昨日今日始まったものではなく、断続的ながら半世紀にも及ぶ。

著者の分析は、微に入り細をうがつもので、目からうろこが落ちること、請け合いである。ことに『マルタの鷹』を題材にとった、動詞や副詞用法の使い分け、視点を含む客観描写の限界に関する考察は、小説家にとってまことに示唆に富むもので、本書中の圧巻といってよかろう。

構成上、注が充実していることも、大きな特長である。へたをすると、本文より長かったりするところが、おもしろい。

1人の著述家の、人生の軌跡をたどった記録として、広く江湖に薦める次第である。
アメリカ・ハードボイルド紀行 ――マイ・ロスト・ハイウェイ / 小鷹 信光
アメリカ・ハードボイルド紀行 ――マイ・ロスト・ハイウェイ
  • 著者:小鷹 信光
  • 出版社:研究社
  • 装丁:単行本(363ページ)
  • 発売日:2011-11-22
  • ISBN:4327481580
内容紹介:
"アメリカ"を集め続けて半世紀。ハードボイルド探偵小説、フィルム・ノワール、西部劇、メンズ・マガジン、ルート66、ポストカード、ロードマップ-路上も紙上もスクリーン上も縦横に旅して手に入れた"著者のアメリカ"のすべて。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2012年1月15日

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