前書き

『21世紀SF1000』(早川書房)

  • 2017/08/27
21世紀SF1000  / 大森 望
21世紀SF1000
  • 著者:大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(591ページ)
  • 発売日:2011-12-07
  • ISBN-10:4150310521
  • ISBN-13:978-4150310523
内容紹介:
21世紀の到来とともに、ふたつの公募SF新人賞が新人作家を続々輩出し、新たなSF叢書"ハヤカワSFシリーズJコレクション"と"リアル・フィクション"がジャンルの中核を形成、… もっと読む
21世紀の到来とともに、ふたつの公募SF新人賞が新人作家を続々輩出し、新たなSF叢書"ハヤカワSFシリーズJコレクション"と"リアル・フィクション"がジャンルの中核を形成、日本のSF出版は充実の時代を迎えた-。月刊書評誌『本の雑誌』連載の「新刊めったくたガイド」から、2001年〜2010年のSF時評を集成。21世紀最初の10年に刊行された主要SF作品1000点を網羅した、現代SFガイドブックの決定版。
子供のころ、二一世紀と言えばまだSFの領分だった。一九六九年七月、アポロ11号の月着陸の生中継は小学校の教室のテレビで見た。翌年の大阪万博ではアメリカ館に二時間並んで月の石を見物した。こういう時代に育った子供がSFファンになるのは必然だろう。二一世紀は光り輝く未来の象徴で、それをありありと見せてくれるのがSFだった。以来、ずっとSFを読みつづけて四十年あまり。SFを読むことが仕事になったいまも、新刊のSFのページを開くときはちょっとだけドキドキする。

ちなみに、僕の本名は”未来”(読みは”みくる”)なので、未来について語られる文章を見るたびになんとなく面映ゆい気持ちになったりもしたわけですが(大阪万博前後に流行した”未来学”とか)、いまやその未来はとっくの昔に過去のものとなり、月面基地もエアカーも実現しないまま、気がつけば二一世紀もすでに十年以上過ぎている。”未来学”のシンボルだった小松左京をはじめ、クラーク、レム、星新一、柴野拓美、浅倉久志など、草創期のSFを支えてきた巨人たちも、多くが鬼籍に入ってしまった。

じゃあ、SFも天寿をまっとうしたのかといえば、そんなことはありません。日本のSFは、二一世紀の到来とともに、一時の(”冬の時代”などと言われた)沈滞ムードを吹き飛ばし、新たな才能と新たな読者を獲得している。

ウソだと思う疑り深い人は、ぜひとも本書をひもといていただきたい。論より証拠、”二一世紀にはどんなSFが出版されているのか”という問いの答えがここにある。二〇〇一年から二〇一〇年まで、二一世紀の最初の十年間に出たSF約千冊を刊行順にざっくり紹介したべんりな一冊が、お手元の『21世紀SF1000』なのである。

本の中身は、月刊書評誌〈本の雑誌〉に連載しているSF時評「新刊めったくたガイド」に各年度のSF出版概況を加えたもの。ただし、ベストテン年度(前年十一月一日から当年十月末まで)に合わせる都合上、年度区切りは一月号〜十二月号ではなく、当年二月号〜翌年一月号としてある(書評対象書籍の発行月でいうと、前年十一月〜当年十月)。

ご承知かどうかわかりませんが、〈本の雑誌〉の新刊SF時評(大森担当分)を集めた本としては、『現代SF1500冊 乱闘編 1975-1995』『現代SF1500冊 回天編 1996〜2005』の二冊が太田出版から二〇〇五年に刊行されている。本書はもともと、その二冊の文庫化企画として出発した。しかし、”昔の本の書評を文庫化して売れるのか”というもっともな疑問が出た結果、”二一世紀の最初の十年分を一冊で”という現在のかたちに落ちついた。そのため、本書収録の時評のうち前半の五年分については、『回天編』収録分と重複、後半五年分は初の書籍化という、変則的なかたちになっている。『回天編』をお持ちの方にはたいへん申し訳ありませんが、天命だと思ってあきらめてください。そのかわり、好きなだけ文句をいっていただいてかまいません。

まあしかし、ごった煮的にいろんなものをとりこんだ『現代SF1500冊』全二巻と違って、本書は〈本の雑誌〉新刊SF時評に内容を絞ったシンプルな構成なので、けっこう別人度が高いんじゃないかと勝手に思っている。今回の書籍化にあたっては、連載中の時事ネタや楽屋話を整理し、諸般の事情で時評から漏れていた作品の紹介をちょっとだけ追加。各年度末の概況では、『SFが読みたい!』で実施されている「ベストSF」アンケートの大森投票と集計結果のほか、日本SF大賞・星雲賞の受賞情報などをまとめた。

時評パートで書名のうしろについている★印の採点は、当然のことながら、大森の主観的な評価。★★★★★が満点(年間ベストワン級)で、☆は★の½個分。★★★★☆(年間ベスト5級)なら4・5ポイントということになる。バイヤーズ・ガイドとしての機能を一応は持たせたつもりだが、何年も経って見直すと、どうしてそういう採点になったのかまったく覚えてなかったりするので、まあ、参考程度にというか、読み逃していた古い本を買うと
きの目安にでもなればさいわいです。なお、★印評価の対象は原則として新刊の小説のみ。新訳で新たに読み直した作品については採点したが、再刊本や再編集本のほか、評論、ノンフィクション等は採点から除外してある。

この種の時評では、推薦するに足る優れた作品だけを選んで紹介するケースが多いようですが、このSF時評の方針は、「その月に出たSFの新刊を時間の許すかぎりぜんぶ読んで、スペースの許すかぎりぜんぶ紹介する」こと。その結果、だいたい年に百冊、十年で千冊を扱っている。「オレ、よくこんな本読んだよなあ」と自分でも呆れる本や、読んだことをまったく思い出せない本もある。しかし、『乱闘編』の序文にも書いたとおり、ジャンル小説の愛好者は、クズまで含めてそのジャンルを愛している。そりゃ傑作について語るのは楽しいけど、どうしようもない愚作について「あれはほんとにひどかったよねえ」と語るのもおなじくらい楽しい。要するに、面白そうなものだけ選んで読むのは聡明なふつうの読者で、度しがたいジャンル愛好者は、可能なかぎりすべてをカバーしようとする。「とにかくぜんぶ読む!」が理想なのである。

とはいえ、この十年に関していうと、前世紀末に比べてSFの出版点数が飛躍的に増えたのと、加齢による読書スピードの低下(本書がカバーする範囲は、筆者にとっては四十歳から四十九歳の十年間にあたる)により、新刊を消化しきれなくなっている。前世紀までは、ジャンルSFの新刊(ライトノベル除く)の九割以上はカバーしている自信があったんですが、いまは(シリーズものを中心に)かなり消化率が落ちている。それでもまあ、主だったSFはだいたい紹介されているはずなので、「そういえばこんなのも出てたなあ」などと懐しく思い出しながら、ぱらぱら拾い読みしていただければさいわいです。
21世紀SF1000  / 大森 望
21世紀SF1000
  • 著者:大森 望
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(591ページ)
  • 発売日:2011-12-07
  • ISBN-10:4150310521
  • ISBN-13:978-4150310523
内容紹介:
21世紀の到来とともに、ふたつの公募SF新人賞が新人作家を続々輩出し、新たなSF叢書"ハヤカワSFシリーズJコレクション"と"リアル・フィクション"がジャンルの中核を形成、… もっと読む
21世紀の到来とともに、ふたつの公募SF新人賞が新人作家を続々輩出し、新たなSF叢書"ハヤカワSFシリーズJコレクション"と"リアル・フィクション"がジャンルの中核を形成、日本のSF出版は充実の時代を迎えた-。月刊書評誌『本の雑誌』連載の「新刊めったくたガイド」から、2001年〜2010年のSF時評を集成。21世紀最初の10年に刊行された主要SF作品1000点を網羅した、現代SFガイドブックの決定版。

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