コラム

松原 隆一郎「2018 この3冊」齊藤誠『<危機の領域>』(けいそうブックス)、村上しほり『神戸 闇市からの復興』(慶應義塾大学出版会)、湯澤規子『胃袋の近代』(名古屋大学出版会)

  • 2019/01/10

2018 この3冊

(1)『<危機の領域> 非ゼロリスク社会における責任と納得』齊藤誠著(けいそうブックス)

(2)『神戸 闇市からの復興 占領下にせめぎあう都市空間』村上しほり著(慶應義塾大学出版会)

(3)『胃袋の近代 食と人びとの日常史』湯澤規子著(名古屋大学出版会)



現実の社会は、選択肢と帰結についての情報と生起確率がすべて分かってはいない危機にしばしば陥る。(1)は原発事故や金融危機等の危機のただ中で、どの程度の合理性がありえたか議事録の詳細等から検討、熟議の政治を希求する。

「過去」の危機は学術的に再構成可能だが、(2)は還暦以上の神戸っ子なら誰もが記憶しつつも論じるのがはばかられる「闇市」やその移転後を、新聞記事や図版等あらゆる資料を駆使して生々しく再現する。学術という思考法の凄さを知らしめる書。

(3)は「職」で描くのが通例の近代社会を、「食」から見直す。大根は保存食としての漬け物を大量生産するために品種改良されたとか、西成の福祉事業所・自彊(じきょう)館では対面盛りつけの食で心を満たしてから職に導いた等、「胃袋の連帯」を論じる。


〈危機の領域〉: 非ゼロリスク社会における責任と納得 / 齊藤 誠
〈危機の領域〉: 非ゼロリスク社会における責任と納得
  • 著者:齊藤 誠
  • 出版社:勁草書房
  • 装丁:単行本(450ページ)
  • 発売日:2018-04-24
  • ISBN-10:4326550813
  • ISBN-13:978-4326550814
内容紹介:
「危機を哲学する」〈危機の領域〉。危機に対応するには多様な意見を交換する熟議を私たちの社会は尊重していかなければならない。

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神戸 闇市からの復興:占領下にせめぎあう都市空間 / 村上 しほり
神戸 闇市からの復興:占領下にせめぎあう都市空間
  • 著者:村上 しほり
  • 出版社:慶應義塾大学出版会
  • 装丁:単行本(388ページ)
  • 発売日:2018-11-06
  • ISBN-10:4766425669
  • ISBN-13:978-4766425666
内容紹介:
戦災復興の原点となった闇市の発生から衰退までの軌跡を辿り、そこから新たな商業空間が根付き、また展開していく過程を描き出す。

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胃袋の近代―食と人びとの日常史― / 湯澤 規子
胃袋の近代―食と人びとの日常史―
  • 著者:湯澤 規子
  • 出版社:名古屋大学出版会
  • 装丁:単行本(354ページ)
  • 発売日:2018-06-26
  • ISBN-10:481580916X
  • ISBN-13:978-4815809164
内容紹介:
一膳飯屋、残飯屋、共同炊事など、都市の雑踏や工場の喧騒のなかで始まった外食の営みを活写。社会と個人とをつなぐ“食”の視点から日本近代史を書き換える。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2018年12月16日

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