コラム
松原 隆一郎「2018 この3冊」齊藤誠『<危機の領域>』(けいそうブックス)、村上しほり『神戸 闇市からの復興』(慶應義塾大学出版会)、湯澤規子『胃袋の近代』(名古屋大学出版会)
2018 この3冊
(1)『<危機の領域> 非ゼロリスク社会における責任と納得』齊藤誠著(けいそうブックス)
(2)『神戸 闇市からの復興 占領下にせめぎあう都市空間』村上しほり著(慶應義塾大学出版会)
(3)『胃袋の近代 食と人びとの日常史』湯澤規子著(名古屋大学出版会)
現実の社会は、選択肢と帰結についての情報と生起確率がすべて分かってはいない危機にしばしば陥る。(1)は原発事故や金融危機等の危機のただ中で、どの程度の合理性がありえたか議事録の詳細等から検討、熟議の政治を希求する。
「過去」の危機は学術的に再構成可能だが、(2)は還暦以上の神戸っ子なら誰もが記憶しつつも論じるのがはばかられる「闇市」やその移転後を、新聞記事や図版等あらゆる資料を駆使して生々しく再現する。学術という思考法の凄さを知らしめる書。
(3)は「職」で描くのが通例の近代社会を、「食」から見直す。大根は保存食としての漬け物を大量生産するために品種改良されたとか、西成の福祉事業所・自彊(じきょう)館では対面盛りつけの食で心を満たしてから職に導いた等、「胃袋の連帯」を論じる。
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