コラム
浅原 昌明『インド細密画への招待』(PHP研究所)、本田 善彦『人民解放軍は何を考えているのか』(光文社)、草野 厚『政権交代の法則』(角川グループパブリッシング) ほか
毎月150冊出る新書からハズレを引かないための 今月読む新書ガイド
(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2008年)
■01『インド細密画への招待 歴史・宗教・文化を訪ねて』浅原昌明・著/PHP新書/893円(税込)■02『人民解放軍は何を考えているのか 軍事ドラマで分析する中国』本田善彦・著/光文社新書/798円(税込)
■03『政権交代の法則 一派閥の正体とその変遷』草野厚・著/角川oneテーマ21/740円(税込)
■04『金田一京助と日本語の近代』安田敏朗・著/平凡社新書/924円(税込)
■05『歴史のかげにグルメあり』黒岩比佐子・著/文春新書/840円(税込)
■06『沖縄イメージを旅する 柳田国男から移住ブームまで』多田治・著/中公新書ラクレ/924円(税込)
■07『ハイエク 知識社会の自由主義』池田信夫・著/PHP新書/735円(税込)
■08『すべての経済はバブルに通じる』小幡績・著/光文社新書/798円(税込)
■09『ジャーナリズム崩壊』上杉隆・著/幻冬舎新書/777円(税込)
■10『環境活動家のウソ八百』リッカルド・カショーリ アントニオ・ガスパリ・著/草皆伸子・訳/洋泉社新書/798円(税込)
今回(8月発売分)の新刊は128冊。お盆で少なめでした。
①インド細密画とは16世紀から19世紀に各地の宮廷で描かれた小さめ(A4大)の絵画のこと。インドの歴史・宗教・文化が渾然と溶けあったこの絵画は日本ではあまり知られておらず、入門書の類もほとんどないそうです。本書は、インドに出向したおりに細密画に魅入られた著者による20数年におよぶ研究の成果。新書でここまでーと溜息が出るほど手間暇のかかった集大成です。紙幅の約半分がフルカラーの図版、印刷の発色も非常にきれいで、ハンディな画集としてパラパラ眺めるだけでも楽しい。
②急激な経済成長にともない、脅威との認識が高まりつつある中国の軍隊「人民解放軍」。軍備などハード面の研究は進んでいるそうですが、かの軍の行動規範などソフト面については踏み込むのがなかなか難しいようです。台北在中の著者が、中国軍メンタリティの秘密は国営で垂れ流される軍事テレビドラマにあり! と喝破、ドラマの分析を通じて中国軍の「内面」に迫ろうという珍しい一冊。
③福田首相辞任と重なってタイムリーです。55年体制成立以降つづく自民党独裁および疑似政権交代、そして、それを支える「派閥」。この日本独特の現象を軸に戦後政治ひもとき、ねじれ国会以降の展望が示されます。簡にして要。
④シブいテーマですが面白いです。失われゆくアイヌ語研究に身を捧げ文化勲章を受章した清貧の学者、金田一京助。国語学・言語学の第一人者と目される金田一ですが、何がすごいのかよくわからんと言語学の俊英がその虚像を剥いでゆきます。結論は、「偉い」というよりも「エラそう」なだけじゃない? ――ミもフタもない(苦笑)。
⑤もう一冊シブ面本を。幕末から明治末期という西洋化が急激に進んだ時代、歴史を飾る事件の裏で要人たちは何をどのように食っておったのか。政治を「食」から照射した外交史です。堅苦しいものではないので野次馬気分で楽しめます。といっても史料渉猟のディープさはハンパありません。
⑥観光地としての沖縄の歴史をつづった一冊。沖縄を知る本としてももちろん読めますが、本質は、本土の人間が沖縄という土地に注ぐ「まなざし」つまり「イメージ」の変遷を追ったメディア論です。
⑦ケインズに負けた人、フリードマンと並ぶ市場原理主義の元凶というイメージの強い経済学者ハイエク。再評価の機運が高い昨今、やっと良い入門書が出ました。ハイエクの思想をインターネットとグローバル資本主義に覆われた現代ヘアクチュアルに接続。
⑧タイトルはよくある煽りではなく、現在の金融資本主義が本質的にはらむ「病」を端的に表現したものです。金融資本の自己増殖本能は必然的にバブルになり破裂する。これは埋め込まれたサイクルであり、金融資本が一度消滅するまで止まらないだろうと著者はいいます。そして、そのとき受ける傷はサブプライム・ショックどころでは済まないだろうとも。
⑨正確には「記者クラブ」批判というべき内容ですね。かの制度が日本の新聞をいかに腐らせているか、著者の実体験に基づく豊富な事例をもとに告発されていきます。フリーを締め出して新聞記者たちはどんな取材をしているか?怒るより前に失笑が漏れるでしょう。たとえば「答え合わせ」。大本営発表の内容とズレていないか、各社の記者がメモを突き合わせ相互にチェックするのが慣例だとか。なるほど横並びになるわけです。
⑩地球温暖化やリサイクルをはじめとする環境問題のウソに対して近年批判が強まってきました。つい数ケ月前にも武田邦彦『偽善エコロジー』(幻冬舎新書)がベストセラーになりましたが、本書は、「地球のために人類は全滅すべき」なんて真顔でいうところまで行ってしまった急進的エコロジーの歴史的展開を詳らかにしたもの。優生思想と人口爆発に対する強迫観念が大元なんですね。
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