書評
『裸者と裸者―孤児部隊の世界永久戦争』(角川書店)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
月田姉妹が海人に諭す言葉どおりの苛酷な世界。作者は、死者を悼む感傷が入り込む隙もない、即物的な反応だけが求められる状況の中に子供たちを投げ込む。それって、かなり陰惨。下巻終盤、すごく重要な登場人物××が死んだ時ですら、その弔辞ときたらこんなんなのだ。
ところが、にもかかわらず、この作品の読み味はとてもいい。それは作者の、キャラクターに向ける視線の温かさゆえ。海人や月田姉妹をはじめとする孤児たちは、この悲劇的な世界にあって、絶望という甘えに逃げ込むことなく、闘う姿勢を少しも崩さない。必要ならば躊躇なく汚いことにも手を染めるけれど、自己弁護をしないので心の芯まで汚れることがない。実に天晴れな子供たちなのだ。
戦時下にあっては大人も子供もない、男も女もない。作者の視線は、だから公平でもある。こんなに女性が男性に伍して活躍する戦争小説は決して多くない。と同時にこれは、多くのことを諦めながら、それでも顔を上げて生きていこうとする少年少女の切実な魂の軌跡を描いた成長小説にもなっている。だから戦争小説が苦手な女子にも自信をもって強力プッシュ。海人萌えしちゃって下さいまし。
【この書評が収録されている書籍】
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
にもかかわらず作品の読み味はとても良いのだ
舞台は内戦状態にある近未来の日本、両親を失った七歳の少年・海人は幼い妹・恵と弟・隆を守るために必死で働いていたのだが、ある日、反乱軍に拉致され、殺さなければ殺されるという極限情況に放りこまれてしまう。が、所属部隊が壊滅寸前に逃亡。海人は、妹と弟のもとへ帰る途中、不思議な魅力を放つ双子、月田桜子と椿子と出会い、家に連れ帰る、兄妹三人で誰のことも傷つけず正直に生きていきたいと願う十五歳に成長した海人だったが、「三人が三人とも善人では生きていけない」という月田姉妹の言葉に則されるように、恵と隆に高い教育を授けてやりたい一心から兵役につくことを決意。こうして孤児部隊の一員として、再び最前線に立つ海人だったのだが――。世界はサンプリングやカットやリミックスの素材であることをやめて、その真実の姿をあらわした。
人々は、ごまかしのないシステムのもとで、自分の孤独と向き合って生きなければならない。若者とて適応のかたちを変えねばならない。
われわれ戦争孤児の、適応のかたちは、二つに一つだ。自殺するか、さもなくば悪党になるか。
月田姉妹が海人に諭す言葉どおりの苛酷な世界。作者は、死者を悼む感傷が入り込む隙もない、即物的な反応だけが求められる状況の中に子供たちを投げ込む。それって、かなり陰惨。下巻終盤、すごく重要な登場人物××が死んだ時ですら、その弔辞ときたらこんなんなのだ。
死んじゃえば人間はたんなるパーツである。(中略)新鮮ならそこそこの商品になる。腐乱した死体の経済価値はゼロだ。残念ながら霊魂は存在しない。じゃあね、××、バイバイ。
ところが、にもかかわらず、この作品の読み味はとてもいい。それは作者の、キャラクターに向ける視線の温かさゆえ。海人や月田姉妹をはじめとする孤児たちは、この悲劇的な世界にあって、絶望という甘えに逃げ込むことなく、闘う姿勢を少しも崩さない。必要ならば躊躇なく汚いことにも手を染めるけれど、自己弁護をしないので心の芯まで汚れることがない。実に天晴れな子供たちなのだ。
戦時下にあっては大人も子供もない、男も女もない。作者の視線は、だから公平でもある。こんなに女性が男性に伍して活躍する戦争小説は決して多くない。と同時にこれは、多くのことを諦めながら、それでも顔を上げて生きていこうとする少年少女の切実な魂の軌跡を描いた成長小説にもなっている。だから戦争小説が苦手な女子にも自信をもって強力プッシュ。海人萌えしちゃって下さいまし。
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