書評

『フランス史「中世」』(論創社)

  • 2017/07/01
フランス史「中世」〈1〉 / ジュール・ミシュレ
フランス史「中世」〈1〉
  • 著者:ジュール・ミシュレ
  • 翻訳:桐村 泰次
  • 出版社:論創社
  • 装丁:単行本(516ページ)
  • 発売日:2016-08-00
  • ISBN:4846015548
内容紹介:
大著『フランス史』中世編の全訳。緻密な資料検証の積み重ねでアナール学派の源流となるとともに、ヴィクトル・ユゴーやバルザックを思わせる筆力で中世フランスをあざやかに蘇らせる。ガリア時代から西暦一〇〇〇年まで。

トッドを150年先取りした畢生の大著

ジュール・ミシュレ畢生(ひっせい)の大著『フランス史』の中世編の全訳の試みである。退屈なところもあるが、さすがはミシュレ、ハッとさせられる卓見が多く、非常におもしろい。

一八六九年の序文で、ミシュレは七月革命直後に『フランス史』に着手した頃のことを回想し、「わたしは《フランス》をはっきりと見出(みいだ)したのだった」と書き出す。政治的編年体のフランス史はあっても、「フランスという国を形成している自然的・地理的要素を統合的に展望している」本当のフランス史はまだ書かれていないと感じたことも動機の一つであった。そこでミシュレは国立文書館に保存されていた古写本や古文書を初めて探索し、フランスを「全生命体」と捉えてこれを「復活」させる方法を模索する。

フランス人の起源はケルト系先住民ガリア人にある。「彼らにとって最大の喜びは戦うことであり、それに次いだのが好奇心を満たすこと」で、異国の人間を迎え、遠国の話を聞くのを好んだ。おしゃべりで「行き当たりばったりにあらゆる放蕩(ほうとう)に耽(ふけ)り、破廉恥な快楽に溺れた」。しかし、ガリア人は勇敢だが、組織力に欠け、カエサル率いるローマ軍の侵略を受けるともろくも敗れる。「カエサルが侵入していったとき、圧倒的に多数であったにもかかわらずガリアが敗れたのは、明らかに、自らを組織するだけの力が不足していたためである」

ローマ化したガリアからはローマ帝国を支える政治家や文人が輩出する。「ガリア人たちは、ローマ帝国の最初の一世紀においては皇帝の推挙に関与し、次の世紀には、同じガリア人を皇帝として供給した。そして第三の世紀においては、崩壊する帝国から自らを分離し、《ガロ・ローマ帝国》を形成しようと試みた」

では、ガリア人を征服したローマ帝国はなぜ自壊していったのか? 小規模自作農民に代わった大規模土地所有者が安易に奴隷に頼ったためである。生産性が低下し、「産業化を必要としたあらゆる物資が、質的に低下していった。(中略)物資は値上がりし、国家が雇用する人々の給与も、それにつれて上がっていかざるをえなかった」。税負担者が減って税享受者が増えたため、叛乱(はんらん)が起きて国土は疲弊し、人口減少が止まらなくなった。これが決定打となり、ローマはゆっくりと崩壊へ向かっていく。「人々が待望したのは死であり、あるいは少なくとも、蛮族の侵入による社会の死であった」

しからば、ゲルマン民族の侵入によってケルト的要素とゲルマン的要素はどのように混じり合っていったのか? ミシュレはその手掛かりの一つを相続法に求める。

ゲルマン人にあっては、長男がすべてを相続して弟たちを養い、弟たちは兄の家のなかで食卓の一隅を保持するだけで満足した。それに対しケルト人にあっては、彼らの剣が皆同じ長さであるように、相続財産は兄弟の間で均等に分けられた。(中略)こうした平等と均等への性向は、各個人を法的に孤立化させる。そこには、法の公平性によって解放された個人を、自発的意志に基づく生き生きした共感の絆によって結び合わせ、これら両方の傾向性に平衡を保たせることが必要であった。(中略)そこにフランスの偉大さがある

凄(すご)い! ミシュレは世界を相続法と親子同居・別居で分類したエマニュエル・トッドを一五〇年先取りしている。中世編だけでも全巻翻訳は壮挙。(桐村泰次訳)
フランス史「中世」〈1〉 / ジュール・ミシュレ
フランス史「中世」〈1〉
  • 著者:ジュール・ミシュレ
  • 翻訳:桐村 泰次
  • 出版社:論創社
  • 装丁:単行本(516ページ)
  • 発売日:2016-08-00
  • ISBN:4846015548
内容紹介:
大著『フランス史』中世編の全訳。緻密な資料検証の積み重ねでアナール学派の源流となるとともに、ヴィクトル・ユゴーやバルザックを思わせる筆力で中世フランスをあざやかに蘇らせる。ガリア時代から西暦一〇〇〇年まで。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2015年10月9日

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