書評

『辻まことの思い出』(みすず書房)

  • 2017/09/10
辻まことの思い出 / 宇佐見 英治
辻まことの思い出
  • 著者:宇佐見 英治
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(231ページ)
  • 発売日:2001-09-14
  • ISBN-10:4622048159
  • ISBN-13:978-4622048152
内容紹介:
辻まことが没し、「思い出」が書かれて四半世紀、現在および将来の読者に、いっそうよく辻まことの姿が身近に感じられるよう、著者は新たに「追記と補注」を書き下ろした。それに、彼を偲んで書いた「多生の旅」ほかの短章、別に小論三篇。「何ものにもなるまいとする精神」の持主に捧げるにふさわしい、自由自在な風韻の漂う一巻。

内職という天職

どんなに読みやすくとも、心に残る言葉はつねに破格である。格があってそれをずらすのではなく、最初から格を超えてしまう柔軟さと、四方八方から引っ張られても裂かれることのない撓(しな)りや強さがある。辻まことがさりげなく発し、気取らず書き留めた言葉は、そうした本質的な破格に満ちあふれ、読む者にたえずあらたな思考をうながす。

挿画家、漫画家、商業デザイナー、スキーヤー、ギタリスト、登山家、詩人、ジャーナリスト。あらゆる方面で水準以上の仕事を残しながら定職につかなかった辻まことは、晩年、著者に「そういえば僕は一生内職しかしたことがないな」と洩らしたという。本来、内職とは本職があってはじめて成り立つ言葉であるはずだ。辻まことは、格をはずれても単独で響きうる表現を、自然に生きてしまう人だった。

著者はこの稀有な友人から、多大な影響をうけた。よく寝かせた思念を硬い言葉の鑿(のみ)で彫りだしていく氏の丹念な仕事に匹敵するものを、友人はわずか数行でまとめてしまう。そんな才能に対する新鮮な驚きと畏敬、人柄への思慕が、語りかけるような回想の書を生んだ。

【この書評が収録されている書籍】
本の音 / 堀江 敏幸
本の音
  • 著者:堀江 敏幸
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(269ページ)
  • 発売日:2011-10-22
  • ISBN-10:4122055539
  • ISBN-13:978-4122055537
内容紹介:
愛と孤独について、言葉について、存在の意味について-本の音に耳を澄まし、本の中から世界を望む。小説、エッセイ、評論など、積みあげられた書物の山から見いだされた84冊。本への静かな愛にみちた書評集。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

辻まことの思い出 / 宇佐見 英治
辻まことの思い出
  • 著者:宇佐見 英治
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(231ページ)
  • 発売日:2001-09-14
  • ISBN-10:4622048159
  • ISBN-13:978-4622048152
内容紹介:
辻まことが没し、「思い出」が書かれて四半世紀、現在および将来の読者に、いっそうよく辻まことの姿が身近に感じられるよう、著者は新たに「追記と補注」を書き下ろした。それに、彼を偲んで書いた「多生の旅」ほかの短章、別に小論三篇。「何ものにもなるまいとする精神」の持主に捧げるにふさわしい、自由自在な風韻の漂う一巻。

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初出メディア

エスクァイア

エスクァイア 2001年12月

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