書評
『サウンドトラック』(集英社)
幼児期を無人島でサバイブした経験を持つトウタとヒツジコ。日本のアラブ人街で育った性別を自在に操ることができるレニと、彼女/彼に影のようにつき従うカラスのクロイ。三人の少年少女+カラスが、それぞれの知覚と武器をもって世界に戦いを挑む姿を描いた古川日出男の『サウンドトラック』は、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』と松本大洋の漫画『鉄コン筋クリート』の読み応えを併せ持つ近未来SF型青春小説だ。
主な舞台はヒートアイランド現象のため熱帯と化している東京。時代設定をわずか五年後にしているため、今現在の東京に古川さんが幻視した異形のそれが絶妙にブレ重なって、読んでいると軽い眩暈(めまい)を覚えてしまう。新小川町はアラブ人街に変じ、西荻窪は外国人排斥運動高まる純ニッポン人だけの居住区と化し、神田川はボートピープルの船で埋め尽くされ、飯田橋のラムラそばの外濠では不法移民が投げ網漁をし、熱帯性の死に至る伝染病が蔓延、患者たちは隔離病棟から脱走し、「だから、あなたも」「ヒトとして」「正しい倫理を生きぬいて」とか、「(自分たちの人権を)認めないなら大流行!(させてやる)」と書いたプラカードを掲げて、首都高速を行進しと、五年後の東京はとんでもないことになっているのだ。
見る者の潜在的な欲望を引き出してしまう踊りによって、大人たちの正気を奪い街を混乱に陥れる、ヒツジコをリーダーに戴いた女子高生ダンサー軍団。「写真銃」を手に世界をshootしまくるレニ。そのレニを助けてランボーのごとく大暴れするトウタ。映画『戦艦ポチョムキン』に熱狂するカラスのクロイ。といったメインストーリーの他にも、地下に棲息し天皇制転覆を図るハイテク機器に身をかためた「傾斜人」、彼らの手下で人語を発するカラスの大群、予言を放つ占い猫集団、移民のためのゲリラ的医療を行っている正義の医師リリリカルドと、彼に協力する気っ風のいい元製薬ウーマン、不法移民のアパートメントと化した結婚式場に君臨する女王ピアス、公園で闘犬のブリーダーをしている男など、怪しい魅力をまとったキャラクターやエピソードを挙げていったらキリがない。
昨年、日本推理作家協会賞と日本SF大賞をW受賞した『アラビアの夜の種族』に続いての傑作の連発。古川日出男が物語王の道を驀進(ばくしん)しているっ。ひれ伏して読むべし!
【この書評が収録されている書籍】
主な舞台はヒートアイランド現象のため熱帯と化している東京。時代設定をわずか五年後にしているため、今現在の東京に古川さんが幻視した異形のそれが絶妙にブレ重なって、読んでいると軽い眩暈(めまい)を覚えてしまう。新小川町はアラブ人街に変じ、西荻窪は外国人排斥運動高まる純ニッポン人だけの居住区と化し、神田川はボートピープルの船で埋め尽くされ、飯田橋のラムラそばの外濠では不法移民が投げ網漁をし、熱帯性の死に至る伝染病が蔓延、患者たちは隔離病棟から脱走し、「だから、あなたも」「ヒトとして」「正しい倫理を生きぬいて」とか、「(自分たちの人権を)認めないなら大流行!(させてやる)」と書いたプラカードを掲げて、首都高速を行進しと、五年後の東京はとんでもないことになっているのだ。
見る者の潜在的な欲望を引き出してしまう踊りによって、大人たちの正気を奪い街を混乱に陥れる、ヒツジコをリーダーに戴いた女子高生ダンサー軍団。「写真銃」を手に世界をshootしまくるレニ。そのレニを助けてランボーのごとく大暴れするトウタ。映画『戦艦ポチョムキン』に熱狂するカラスのクロイ。といったメインストーリーの他にも、地下に棲息し天皇制転覆を図るハイテク機器に身をかためた「傾斜人」、彼らの手下で人語を発するカラスの大群、予言を放つ占い猫集団、移民のためのゲリラ的医療を行っている正義の医師リリリカルドと、彼に協力する気っ風のいい元製薬ウーマン、不法移民のアパートメントと化した結婚式場に君臨する女王ピアス、公園で闘犬のブリーダーをしている男など、怪しい魅力をまとったキャラクターやエピソードを挙げていったらキリがない。
昨年、日本推理作家協会賞と日本SF大賞をW受賞した『アラビアの夜の種族』に続いての傑作の連発。古川日出男が物語王の道を驀進(ばくしん)しているっ。ひれ伏して読むべし!
【この書評が収録されている書籍】
初出メディア

Invitation(終刊) 2003年12月
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