書評

『ボランティア―もうひとつの情報社会』(岩波書店)

  • 2017/11/22
ボランティア―もうひとつの情報社会 / 金子 郁容
ボランティア―もうひとつの情報社会
  • 著者:金子 郁容
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(247ページ)
  • 発売日:1992-07-20
  • ISBN:4004302358
内容紹介:
情報洪水のなかで、多くの人が無力感や焦燥感に包まれている現代社会。ボランティアは、それを変えるための「手掛かり」になるのではないか。献身や慈善といった旧来のイメージを超え、誰もが気負うことなく参加できるボランティアとは?企業の社会貢献はなぜ必要か。ネットワーク論の旗手が新しいうねりを紹介し、その意義を考える。
あるボランティア活動の様子が、テレビ番組で報じられていた。一人暮らしの老人のところへ通って、食事を作り、話し相手になる、という内容である。老人はもちろん喜んでいたが、それ以上に生き生きと輝いていたボランティアのおばさんの表情が、とても印象に残った。本書を読んで、その「生き生き」の秘密が、わかったように思う。

ボランティアをしている人の多くが「与えているよりも、ずっとたくさんのものを受け取っている」と感じるのだそうだ。もちろん「受け取っている」ものは、お金に換算することは、できない。そのことが、貨幣中心の経済システムがいきわたっている現在、多くの人の目に奇異なことに映る。が、現在の経済システムが確立したのは、人類の歴史からすればごく最近のこと。それ以前の社会にあった多様な関係性は、ボランティアの生みだす豊かな関係性と類似し、むしろそちらのほうが人間の関係性の本流なのだ、と著者は指摘する。

いっぽう、未来に目を向けたときにも、ボランティアは大きな可能性を持っている。

現代社会には「情報」という、今までの経済の常識では割り切れない価値が登場した。

稀少であることや所有できることが、これまでの経済的価値だったのだが、情報にはその原則はあてはまらない。では、どうするか。

「与えることによって与えられる」ボランティア。最初の一歩が次々と輪を広げてゆくボランティア。そのメカニズムは、情報と共通する点が多い。ボランティアの抱える問題や、それをサポートするシステムを考えること。それは、新しい価値観に基づいた情報社会を構築するための、具体的なヒントとなるだろう、という本書の意見は、まことに興味深い。

「ボランティア」という言葉が、かつてなかった角度から照らされて、輝いているのを感じる。

著者の体験を含めて、「不思議な関係と意外な展開」を生み出したボランティア活動の例が、肉声を伴いながら紹介されている点も、魅力だろう。一人の心のなかに生まれたさざなみが、やがて大きなうねりとなってゆく様子は、感動的だ。それも、ただじーんとする話、というのではない。人間が人間に関わるとはどういうことか、を考えさせられた。

近年注目を集めている「V切符制度」や「ボランティア休暇」などについても、その意義やしくみが、わかりやすく書かれている。

【この書評が収録されている書籍】
本をよむ日曜日 / 俵 万智
本をよむ日曜日
  • 著者:俵 万智
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(205ページ)
  • ISBN:4309009719
内容紹介:
きょうの予定…一日読書。切ない本、わくわくする本、やさしい気持になれる本 実は楽しい古典から、話題のベストセラーまで「ねぇ、これおもしろかったから読んでみて。」。

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ボランティア―もうひとつの情報社会 / 金子 郁容
ボランティア―もうひとつの情報社会
  • 著者:金子 郁容
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(247ページ)
  • 発売日:1992-07-20
  • ISBN:4004302358
内容紹介:
情報洪水のなかで、多くの人が無力感や焦燥感に包まれている現代社会。ボランティアは、それを変えるための「手掛かり」になるのではないか。献身や慈善といった旧来のイメージを超え、誰もが気負うことなく参加できるボランティアとは?企業の社会貢献はなぜ必要か。ネットワーク論の旗手が新しいうねりを紹介し、その意義を考える。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞

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