書評

『ネパールの人身売買サバイバーの当事者団体から学ぶ―家族、社会からの排除を越えて』(上智大学出版)

  • 2018/08/17
ネパールの人身売買サバイバーの当事者団体から学ぶ―家族、社会からの排除を越えて / 田中 雅子
ネパールの人身売買サバイバーの当事者団体から学ぶ―家族、社会からの排除を越えて
  • 著者:田中 雅子
  • 出版社:上智大学出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(183ページ)
  • 発売日:2017-05-12
  • ISBN-10:4324102619
  • ISBN-13:978-4324102619
内容紹介:
日本におけるネパールのイメージは、紛争、混乱、貧困、そして2015年の大地震・・・など否定的なものが多いかもしれませんが、市民社会においては当事者団体の存在感が大きく、社会的スティグ… もっと読む
日本におけるネパールのイメージは、紛争、混乱、貧困、そして2015年の大地震・・・など否定的なものが多いかもしれませんが、市民社会においては当事者団体の存在感が大きく、社会的スティグマをもつ人びとによる多様な当事者運動が盛んです。
本書では、2013年度にアジアのノーベル賞といわれるマグサイサイ賞を受賞した、人身売買の被害を克服したサバイバーの当事者団体シャクティ・サムハ(ネパール語で「力強いグループ」の意)を取り上げ、家族や地域社会からの排除など、社会的スティグマに苦しんでいた女性たちが、自身の権利の回復に目覚め、人身売買撲滅運動の担い手として成長する過程を紹介します。
貧困や暴力は遠い国の話ではなく、日本国内にも人身売買(人身取引)や性的搾取の被害者・加害者が多数存在していますが、「問題を放置している国」とされています。
日本社会の問題についても考えるヒントを示唆してくれる1冊です。
世界中で奴隷制が合法である場所はほとんどなくなったが、似たような境遇に置かれて人身取引されたり性的に搾取されたりしている人は現在でも数千万人いて、むしろ拡大しているとされる。実は日本も、人身取引被害者が五万人ほどいるとされ、十分な取締や対策が行われていない国として注視されている。

その点で、ネパールは、だまされてインドの買春宿やサーカスに連れていかれたり、縫製工場などで働かされたりする被害者が多い一方、犯人が厳しく処罰されている点で高評価されている。また、防止対策や被害から脱した人(サバイバー)への支援も充実しているという。なかでも、サバイバーたち自身が作った団体が重要な役割を果たしている。被害者は家族や出身コミュニティから拒絶される場合があり、社会への復帰には繊細さのある多様な支援が必要になるからだ。そのメンバーのライフストーリーからは、人が売買被害に遭う状況が単純でなく、教育のない人ばかりでもないことがわかってくる。人身売買に限らないさまざまな人権被害者サポートへのヒントがある。
ネパールの人身売買サバイバーの当事者団体から学ぶ―家族、社会からの排除を越えて / 田中 雅子
ネパールの人身売買サバイバーの当事者団体から学ぶ―家族、社会からの排除を越えて
  • 著者:田中 雅子
  • 出版社:上智大学出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(183ページ)
  • 発売日:2017-05-12
  • ISBN-10:4324102619
  • ISBN-13:978-4324102619
内容紹介:
日本におけるネパールのイメージは、紛争、混乱、貧困、そして2015年の大地震・・・など否定的なものが多いかもしれませんが、市民社会においては当事者団体の存在感が大きく、社会的スティグ… もっと読む
日本におけるネパールのイメージは、紛争、混乱、貧困、そして2015年の大地震・・・など否定的なものが多いかもしれませんが、市民社会においては当事者団体の存在感が大きく、社会的スティグマをもつ人びとによる多様な当事者運動が盛んです。
本書では、2013年度にアジアのノーベル賞といわれるマグサイサイ賞を受賞した、人身売買の被害を克服したサバイバーの当事者団体シャクティ・サムハ(ネパール語で「力強いグループ」の意)を取り上げ、家族や地域社会からの排除など、社会的スティグマに苦しんでいた女性たちが、自身の権利の回復に目覚め、人身売買撲滅運動の担い手として成長する過程を紹介します。
貧困や暴力は遠い国の話ではなく、日本国内にも人身売買(人身取引)や性的搾取の被害者・加害者が多数存在していますが、「問題を放置している国」とされています。
日本社会の問題についても考えるヒントを示唆してくれる1冊です。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 2017年7月2日

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