書評

『BEFORE THEY PASS AWAY -彼らがいなくなる前に-』(パイインターナショナル)

  • 2022/07/27
BEFORE THEY PASS AWAY -彼らがいなくなる前に- / ジミー・ネルソン
BEFORE THEY PASS AWAY -彼らがいなくなる前に-
  • 著者:ジミー・ネルソン
  • 翻訳:神長倉 伸義
  • 出版社:パイインターナショナル
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(280ページ)
  • 発売日:2016-12-09
  • ISBN-10:4756247962
  • ISBN-13:978-4756247964
内容紹介:
世界各地を訪れ、失われつつある民族の生活や文化を肖像として撮影した写真集。彼らのさまざまな風習や身の回りの工芸品の圧倒的な美しさを写し撮るだけでなく、文化の守り手である人々の内面までも写し出す。「ドイツフォトブックアワード2014」金賞受賞!

強烈な人間の尊厳

写真の黎明期には、世界各地の「未開人」を写真家が探し出し、簡易スタジオに連れてきて撮影し、絵ハガキとして販売するのがはやった。それは実際に現場まで出かけていけない多くの人に世界の広さ、多様さを知らせることになり、教育的意味をもった一方、異文化のエキゾチック(珍奇)な部分だけに注目するいびつな感覚を生み出し、「野蛮人」や「土人」という差別意識を固定化することにもなった。

ここに紹介する写真集は現代の地球の辺境に暮らす民族の生活様式を記録したものだが、十九世紀の「未開人写真」ときわどく重なってくる側面がある。しかも、ここにはアジア太平洋地域とアフリカを中心に、二十ほどの民族集団が選ばれているが、その選択においては、衣装や身体装飾などがフォトジェニックであるかどうかが重要な基準となっている。その点でエキゾチシズム丸出しの本だとも言えるのだ。

しかし、どのページをめくってみても、そこにとらえられている人たちの容姿と面貌の迫力には圧倒される。あまりにも強烈で、一度には全部を通読できないほどだ。人の威厳とか尊厳ということをこれほど感じさせる写真は珍しいのではないか。一方で、ここに登場する人々は、写真家の要請に応じて最大限に気張って、おしゃれをしてきたのであることも忘れてはなるまい。伝統的な姿の記録というよりも、現代を生きる彼ら自身が想像した理想の姿の記録なのだ。それだけに、人間のイマジネーションのすごさを思い知らされる。人間はどうしてこんなに不思議な格好、装飾、ファッションを思いつくんだろうか? それに比べれば、現代の都会の人間の感覚はずいぶんと単純じゃないか?

こうした民族はしかし、書名が暗示するように自然消滅していっているのではない。その現場の多くでは現代文明に迫害され、意図的に撲滅されつつあるのだ。それこそがこの本の本当の訴えだろう。神長倉伸義訳。
BEFORE THEY PASS AWAY -彼らがいなくなる前に- / ジミー・ネルソン
BEFORE THEY PASS AWAY -彼らがいなくなる前に-
  • 著者:ジミー・ネルソン
  • 翻訳:神長倉 伸義
  • 出版社:パイインターナショナル
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(280ページ)
  • 発売日:2016-12-09
  • ISBN-10:4756247962
  • ISBN-13:978-4756247964
内容紹介:
世界各地を訪れ、失われつつある民族の生活や文化を肖像として撮影した写真集。彼らのさまざまな風習や身の回りの工芸品の圧倒的な美しさを写し撮るだけでなく、文化の守り手である人々の内面までも写し出す。「ドイツフォトブックアワード2014」金賞受賞!

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 2016年12月11日

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