書評
『BEFORE THEY PASS AWAY -彼らがいなくなる前に-』(パイインターナショナル)
強烈な人間の尊厳
写真の黎明期には、世界各地の「未開人」を写真家が探し出し、簡易スタジオに連れてきて撮影し、絵ハガキとして販売するのがはやった。それは実際に現場まで出かけていけない多くの人に世界の広さ、多様さを知らせることになり、教育的意味をもった一方、異文化のエキゾチック(珍奇)な部分だけに注目するいびつな感覚を生み出し、「野蛮人」や「土人」という差別意識を固定化することにもなった。ここに紹介する写真集は現代の地球の辺境に暮らす民族の生活様式を記録したものだが、十九世紀の「未開人写真」ときわどく重なってくる側面がある。しかも、ここにはアジア太平洋地域とアフリカを中心に、二十ほどの民族集団が選ばれているが、その選択においては、衣装や身体装飾などがフォトジェニックであるかどうかが重要な基準となっている。その点でエキゾチシズム丸出しの本だとも言えるのだ。
しかし、どのページをめくってみても、そこにとらえられている人たちの容姿と面貌の迫力には圧倒される。あまりにも強烈で、一度には全部を通読できないほどだ。人の威厳とか尊厳ということをこれほど感じさせる写真は珍しいのではないか。一方で、ここに登場する人々は、写真家の要請に応じて最大限に気張って、おしゃれをしてきたのであることも忘れてはなるまい。伝統的な姿の記録というよりも、現代を生きる彼ら自身が想像した理想の姿の記録なのだ。それだけに、人間のイマジネーションのすごさを思い知らされる。人間はどうしてこんなに不思議な格好、装飾、ファッションを思いつくんだろうか? それに比べれば、現代の都会の人間の感覚はずいぶんと単純じゃないか?
こうした民族はしかし、書名が暗示するように自然消滅していっているのではない。その現場の多くでは現代文明に迫害され、意図的に撲滅されつつあるのだ。それこそがこの本の本当の訴えだろう。神長倉伸義訳。