書評

『WHAT IS SAPEUR ?――貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち』(祥伝社)

  • 2021/11/28
WHAT IS SAPEUR ?――貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち / NHK「地球イチバン」制作班
WHAT IS SAPEUR ?――貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち
  • 著者:NHK「地球イチバン」制作班
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:単行本(127ページ)
  • 発売日:2015-12-15
  • ISBN-10:4396615477
  • ISBN-13:978-4396615475
内容紹介:
一流ブランドのビビットな色遣いの服で身を固めた「SAPE(サップ)」と呼ばれるおしゃれな男たち。「SAPE(サップ)」とは「Society for the Advancement of people of Elegance」の略称で「エレガ… もっと読む
一流ブランドのビビットな色遣いの服で身を固めた「SAPE(サップ)」と呼ばれるおしゃれな男たち。「SAPE(サップ)」とは「Society for the Advancement of people of Elegance」の略称で「エレガントで愉快な仲間たち」を意味する。その「SAPE(サップ)」を楽しむものたちが「SAPEUR(サプール)」と呼ばれる。
2014年12月NHKで放映された『地球イチバン~世界一服にお金をかける男たち』は、ネット上で話題となり、「サプール」たちの存在は多くに知られることとなった。
彼らは自らファッションを楽しむだけでなく、争いで疲弊した街の人々に希望を与え続けているコンゴの文化であり、また希望である。英国の著名デザイナー、ポール・スミスも彼らの大胆な色遣いやコンビネーションに刺激を受けコレクションに反映させている。本書は番組の担当ディレクターの取材記をもとに、サプールの生き方を紹介。どんな状況におかれても、全力でファッションを楽しむ男たちの姿とともに、着飾ることが人々の心とまた世の中にどう影響していくのかを考えさせられる一冊に。

新次元の審美的抵抗

週に一回、夜の外出をするときには、たとえスニーカーであっても磨きあげて履き、一張羅のズボンやドレスにアイロンをかけて最大限に格好をつけて出かけていく??このような感覚は多くの発展途上国で当たり前のものだ。そこでは貧しくても見栄は張るべきものなのだ。この本は、そのような見栄とエレガンスの感覚を極限までつきつめた旧フランス領コンゴの男たち、「サプール」の美意識を取り上げる。

格差の大きいアフリカでは金持ちが衣服に凝るのは当たり前のことだが、サプールたちが特異なのは、彼らがトタン屋根の家に暮らす労働者でありながら、ハレの一日の衣装一着に何か月分もの給料をつぎこむようなアンバランスな価値観を意識的に選択しているからだ。しかも、民族意識の強まった現代のアフリカで、彼らは民族服ではなく植民地主義の象徴ともいえる西洋服を選択した。ただし、独自の美学によって徹底的に磨き上げられて、換骨奪胎された異次元のイカした西洋服だ。サプールたちの論理はこうだ。服飾に全力を注ぐというのは国家主義や民族主義になびくことを拒否する個人主義の称揚であり、暴力と財力の支配がまかり通る世界の現状に対する審美主義の反抗である。目の前の現実はいかにも不満足なものだが、彼らは遠くを見つめるポーズをとることでそれを超越し、理想の世界を描き出してみせる。そこにパリやロンドンに対する複雑な感情があるのはまちがいないが、彼らは憧れを超えてエレガンスの観念自体を書き換えてしまった。

本書のもとになったテレビ番組が巻き起こした大反響は、テレビを持つのをやめた評者のもとにまで伝わってきた。そこまでの反響があったのは、日本でもこうした新次元の審美的抵抗の感覚が生まれているからだろう。より深く彼らを知るには先行書『サプール、ザ・ジェントルメン・オブ・バコンゴ』(青幻舎)を勧める。世界が単純ではないことを思い知らされる。
WHAT IS SAPEUR ?――貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち / NHK「地球イチバン」制作班
WHAT IS SAPEUR ?――貧しくも世界一エレガントなコンゴの男たち
  • 著者:NHK「地球イチバン」制作班
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:単行本(127ページ)
  • 発売日:2015-12-15
  • ISBN-10:4396615477
  • ISBN-13:978-4396615475
内容紹介:
一流ブランドのビビットな色遣いの服で身を固めた「SAPE(サップ)」と呼ばれるおしゃれな男たち。「SAPE(サップ)」とは「Society for the Advancement of people of Elegance」の略称で「エレガ… もっと読む
一流ブランドのビビットな色遣いの服で身を固めた「SAPE(サップ)」と呼ばれるおしゃれな男たち。「SAPE(サップ)」とは「Society for the Advancement of people of Elegance」の略称で「エレガントで愉快な仲間たち」を意味する。その「SAPE(サップ)」を楽しむものたちが「SAPEUR(サプール)」と呼ばれる。
2014年12月NHKで放映された『地球イチバン~世界一服にお金をかける男たち』は、ネット上で話題となり、「サプール」たちの存在は多くに知られることとなった。
彼らは自らファッションを楽しむだけでなく、争いで疲弊した街の人々に希望を与え続けているコンゴの文化であり、また希望である。英国の著名デザイナー、ポール・スミスも彼らの大胆な色遣いやコンビネーションに刺激を受けコレクションに反映させている。本書は番組の担当ディレクターの取材記をもとに、サプールの生き方を紹介。どんな状況におかれても、全力でファッションを楽しむ男たちの姿とともに、着飾ることが人々の心とまた世の中にどう影響していくのかを考えさせられる一冊に。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 2016年1月17日

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