書評
『男の首』(東京創元社)
ジョルジュ・シムノンの代表作であり、メグレ警視物の最高傑作とされる。しかし、本当にそれだけの価値があるかどうかはわからない。シムノンが二十八歳の若さで書いた初期作品であり、ジェリアン・デュヴィヴィエ監督によって映画化されたために(『モンパルナスの夜』)有名になったと思われるふしがあるからである。ただし、すぐれた小説であることは否定できない。主人公のラデック、無政府主義者にならず犯罪者になったこの男はドストエフスキー的キャラクターであるが、サイコ的犯罪者の先駆とも見ることができる。第二次大戦前に書かれたミステリのなかで、もっとも強烈な印象を残す人物と言ってもいいだろう。
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