書評

『ブーベ氏の埋葬 【シムノン本格小説選】』(河出書房新社)

  • 2017/12/28
ブーベ氏の埋葬 【シムノン本格小説選】 / ジョルジュ・シムノン
ブーベ氏の埋葬 【シムノン本格小説選】
  • 著者:ジョルジュ・シムノン
  • 翻訳:長島 良三
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(204ページ)
  • 発売日:2010-12-30
  • ISBN-10:4309205577
  • ISBN-13:978-4309205571
内容紹介:
第二次世界大戦直後のパリ、八月のある朝、セーヌ河の河岸通りの古本屋で版画集を眺めていたブーベ氏が急死する。七十六歳のブーベ氏は近くのトゥルネル河岸通りのアパルトマンで周囲の人に慕… もっと読む
第二次世界大戦直後のパリ、八月のある朝、セーヌ河の河岸通りの古本屋で版画集を眺めていたブーベ氏が急死する。七十六歳のブーベ氏は近くのトゥルネル河岸通りのアパルトマンで周囲の人に慕われながら慎ましい暮らしをしており、身よりもいないと言われていた。ところが、偶然のことで新聞に載った故人の写真から、複数の人間が身内だと名乗って警察に現れる関わりがあったという何人もの女も現れるそのそれぞれが、謎と矛盾に満ちた、脈絡のないブーベ氏の前歴を証言するそして次第に戦前・戦中の暗黒の世界があぶり出されてくる果たしてブーベ氏とはいったい何者なのか。

古き良きパリの風俗人情を活写

これは、メグレ警視シリーズ以外の、シムノンの普通小説の一つである。とはいえ、シムノンらしく事件があり、捜査も謎解きもあるので、ミステリーとして読んでも不都合はない。

この作品の主人公は、冒頭2ページ目でパリの街頭に頓死する、ルネ・ブーベ氏である。

氏の急死を伝える新聞の写真を見て、いろいろな人が弔問にやって来る。やがて、彼は行方をくらました自分の夫で、姓はブーベではなくマーシュだ、と主張する女が現れる。次いで、2人のあいだの娘と名乗る女が訪れ、さらにブーベ氏の妹と称する老女も、登場してくる。そこへ氏の女性問題、遺産問題がからみ、複雑な人間関係があらわになっていく。

パリ警視庁の刑事、ムッシュー・ボーペールのねばり強い捜査で、ブーベ氏の過去がしだいに明らかになる過程が、人間味豊かに描かれるところは、いかにもシムノンらしい。

衝撃的な解決が待ち受けるわけではないが、パリの風俗人情を活写したこの小説は、古きよき時代の雰囲気を伝える佳作といえよう。そう、小説の真の主人公は、パリの街そのものかもしれない。
ブーベ氏の埋葬 【シムノン本格小説選】 / ジョルジュ・シムノン
ブーベ氏の埋葬 【シムノン本格小説選】
  • 著者:ジョルジュ・シムノン
  • 翻訳:長島 良三
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(204ページ)
  • 発売日:2010-12-30
  • ISBN-10:4309205577
  • ISBN-13:978-4309205571
内容紹介:
第二次世界大戦直後のパリ、八月のある朝、セーヌ河の河岸通りの古本屋で版画集を眺めていたブーベ氏が急死する。七十六歳のブーベ氏は近くのトゥルネル河岸通りのアパルトマンで周囲の人に慕… もっと読む
第二次世界大戦直後のパリ、八月のある朝、セーヌ河の河岸通りの古本屋で版画集を眺めていたブーベ氏が急死する。七十六歳のブーベ氏は近くのトゥルネル河岸通りのアパルトマンで周囲の人に慕われながら慎ましい暮らしをしており、身よりもいないと言われていた。ところが、偶然のことで新聞に載った故人の写真から、複数の人間が身内だと名乗って警察に現れる関わりがあったという何人もの女も現れるそのそれぞれが、謎と矛盾に満ちた、脈絡のないブーベ氏の前歴を証言するそして次第に戦前・戦中の暗黒の世界があぶり出されてくる果たしてブーベ氏とはいったい何者なのか。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2011年2月27日

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