書評
『世界の涯まで犬たちと』(角川書店)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
ジュディ・バドニッツの『空中スキップ』(マガジンハウス)を皮切りに、ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』(国書刊行会)、ラッタウット・ラープチャルーンサップ『観光』(早川書房)、キャロル・エムシュウィラー『すべての終わりの始まり』(国書刊行会)、ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』(早川書房)、イーユン・リー『千年の祈り』(新潮社)、イーディス・ウォートン『幽霊』(作品社)と、すっばらしい短篇集がいっぱい出た年として覚えておきたいねー、二〇〇七年を。そんな感じ。
で、嬉しいことにまた出ちゃったんですの、一度読んだら忘れられないほどヘンテコな短篇集が。アーサー・ブラッドフォードの『世界の涯まで犬たちと』。〈ぼくが恋人の飼い犬と寝ているといったら、きっと変なやつだと思われるだろう。でも、それはぼくにとっていちばん困った秘密ってわけじゃない〉なんて変態チックな書き出しの「ドッグズ」をまず読んでみて下さい。笑うよー。おっどろくよー。ぶっ飛んじゃうよー。
恋人の愛犬エルイーズと寝る→エルイーズが数匹の子犬と小さな男の赤ちゃんを産む→ぼくは赤ちゃんを箱に入れて川に流す→恋人と別れたぼくは子犬(つまり我が子)を一匹だけ引き取る→家に歌が上手なジャコウネズミがやってくる→実はそのジャコウネズミは……。どこからこんな奇天烈な物語を思いつくのか、作者の脳にジャックインしたくなる展開になっているのです。死者の女性と結婚して、やはり死者である子供二人と、彼らの言葉を通訳してくれる霊媒の五人でディズニーランドに行く男を描いたケリー・リンクの「大いなる離婚」(『マジック・フォー・ビギナーズ』収録)に、ちょっと読み味が似てるような気がいたします。
冒頭に置かれている「キャットフェイス」という一篇も、身体障害というデリケートに扱ったほうが無難なテーマをビザールな視点で描ききってかなり剣呑な小説といえましょう。ワンルームの部屋をルームメイトとシェアしている〈ぼく〉と三本足の飼い犬、〈医療ミスか何かで、つるつると光沢のある平べったい顔に生まれてしまった男〉キャットフェイス、奇形の子犬たちを育てている女性クリスティン。この三人をめぐる物語なんですが――。日本の文芸誌じゃ、もしかするとボツ食らうかも。そんな危険な小説なのです。ま、とにかくご一読を。
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
一度読んだら忘れられないほどヘンテコ&危険な短篇集
年末が近づいて「今年出た翻訳小説のおすすめ作品や傾向」みたいな取材を受けることが増えたんですが、そのたびに「短篇集に収穫が大きかったですねー」なんつって、誰でもわかることを発言して恥じない厚顔無恥無知なわたくしなんですの。ジュディ・バドニッツの『空中スキップ』(マガジンハウス)を皮切りに、ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』(国書刊行会)、ラッタウット・ラープチャルーンサップ『観光』(早川書房)、キャロル・エムシュウィラー『すべての終わりの始まり』(国書刊行会)、ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』(早川書房)、イーユン・リー『千年の祈り』(新潮社)、イーディス・ウォートン『幽霊』(作品社)と、すっばらしい短篇集がいっぱい出た年として覚えておきたいねー、二〇〇七年を。そんな感じ。
で、嬉しいことにまた出ちゃったんですの、一度読んだら忘れられないほどヘンテコな短篇集が。アーサー・ブラッドフォードの『世界の涯まで犬たちと』。〈ぼくが恋人の飼い犬と寝ているといったら、きっと変なやつだと思われるだろう。でも、それはぼくにとっていちばん困った秘密ってわけじゃない〉なんて変態チックな書き出しの「ドッグズ」をまず読んでみて下さい。笑うよー。おっどろくよー。ぶっ飛んじゃうよー。
恋人の愛犬エルイーズと寝る→エルイーズが数匹の子犬と小さな男の赤ちゃんを産む→ぼくは赤ちゃんを箱に入れて川に流す→恋人と別れたぼくは子犬(つまり我が子)を一匹だけ引き取る→家に歌が上手なジャコウネズミがやってくる→実はそのジャコウネズミは……。どこからこんな奇天烈な物語を思いつくのか、作者の脳にジャックインしたくなる展開になっているのです。死者の女性と結婚して、やはり死者である子供二人と、彼らの言葉を通訳してくれる霊媒の五人でディズニーランドに行く男を描いたケリー・リンクの「大いなる離婚」(『マジック・フォー・ビギナーズ』収録)に、ちょっと読み味が似てるような気がいたします。
冒頭に置かれている「キャットフェイス」という一篇も、身体障害というデリケートに扱ったほうが無難なテーマをビザールな視点で描ききってかなり剣呑な小説といえましょう。ワンルームの部屋をルームメイトとシェアしている〈ぼく〉と三本足の飼い犬、〈医療ミスか何かで、つるつると光沢のある平べったい顔に生まれてしまった男〉キャットフェイス、奇形の子犬たちを育てている女性クリスティン。この三人をめぐる物語なんですが――。日本の文芸誌じゃ、もしかするとボツ食らうかも。そんな危険な小説なのです。ま、とにかくご一読を。
【この書評が収録されている書籍】
ALL REVIEWSをフォローする








































