書評

『アナンシの血脈』(角川書店)

  • 2017/07/24
アナンシの血脈〈上〉 / ニール ・ゲイマン
アナンシの血脈〈上〉
  • 著者:ニール ・ゲイマン
  • 翻訳:金原 瑞人
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:単行本(287ページ)
  • 発売日:2006-12-00
  • ISBN-10:4047915343
  • ISBN-13:978-4047915343
内容紹介:
何をやっても冴えないチャーリーは、父親の葬儀の日に衝撃の事実を告げられる。「あんたの父さんは神だったからね―」そしてある日、神の血を色濃く受け継ぐ、スパイダーという名のきょうだいが… もっと読む
何をやっても冴えないチャーリーは、父親の葬儀の日に衝撃の事実を告げられる。「あんたの父さんは神だったからね―」そしてある日、神の血を色濃く受け継ぐ、スパイダーという名のきょうだいが現れて、平凡だったチャーリーの人生は音を立てて崩れはじめた。アフリカ神話の神の血脈に連なる二人の青年。その正反対の生き方がぶつかって巻き起こるとんでもない事件とは…?!ありえない現実と真に迫る幻想が交錯する、ジェットコースター・ストーリー。
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」

愉快痛快! 万人にオススメのマジカルな傑作

超人気アメリカンコミック『サンドマン』(インターブックス)の原作者にして、世界幻想文学大賞やヒューゴー賞といったSFやファンタジーの傑作に与えられる名だたる賞を総なめにしている作家、二ール・ゲイマン。その最新作が、すごく賑やかなファンタジー『アナンシの血脈』です。主人公はファット・チャーリー。何をやっても冴えない、魅力があるとはお世辞にもいえない青年です。そのチャーリーが、父親の葬儀で近所の老婦人ミセス・ヒグラーに「あんたの父さんは、神さまなんだよ」と告げられるところから、この破天荒な物語の幕が開きます。周囲の人々を魅了せずにはおかないモテモテ男の父親も、チャーリーにとっては恥ずかしいことばかりしでかす変人にすぎません。その父親が神さまだって? もちろん、チャーリーは笑い飛ばします。ところが、ミセス・ヒグラーはもうひとつの驚天動地の新事実をチャーリーに告げるのです、あんたには兄弟がいて、「もしあの子に会いたいんなら、クモにそういえばいい。そしたら、すぐに姿をあらわすよ」。つい、酒に酔った勢いでクモに話しかけてしまうチャーリー。

こうして、目の前に父親そっくりの性格の兄弟スパイダーが現れてからの展開はシチュエーション・コメディさながらの面白さです。ハンサムで、おまけに魔法が使えるスパイダーは、やりたい放題。チャーリーの婚約者まで奪ってしまいます。怒り心頭に発したチャーリーが、スパイダーを追い出すために、ミセス・ヒグラーの力を借りて異世界へと赴き、不気味な鳥女と契約を果たすも――。アフリカ神話に出てくる、トンチと機転で敵をあざむくトリックスターのような神さま、アナンシの血を受け継いだ男の受難をテンポのよい筋運びとユーモア溢れる筆致で描いており、愉快痛快。ミステリーの趣向まで取り込んで、サービス満点のエンターテインメントになっているのです。

でも、それだけに終わりません。作者はさまざまな神話を織り込むことで、自分らしく生きるってどういうことなのかという、人生の重大事についても謳いあげてみせるのです。

〈みんな自分の歌をもっている。この世で、ほかの人がつくる歌とは違う。その歌は、その歌だけの旋律と歌詞をもっている。自分の歌がちゃんと歌える人はほとんどいない。ほとんどの人は、自分の声ではその歌の魅力を引き出せないんじゃないかと、おびえている〉

一人の青年が自分の歌と声を見つけるまでを描いた、ビルドゥングスロマンとしても秀逸。万人におすすめできるマジカルな傑作なのです。

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN-10:4054038727
  • ISBN-13:978-4054038721
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

アナンシの血脈〈上〉 / ニール ・ゲイマン
アナンシの血脈〈上〉
  • 著者:ニール ・ゲイマン
  • 翻訳:金原 瑞人
  • 出版社:角川書店
  • 装丁:単行本(287ページ)
  • 発売日:2006-12-00
  • ISBN-10:4047915343
  • ISBN-13:978-4047915343
内容紹介:
何をやっても冴えないチャーリーは、父親の葬儀の日に衝撃の事実を告げられる。「あんたの父さんは神だったからね―」そしてある日、神の血を色濃く受け継ぐ、スパイダーという名のきょうだいが… もっと読む
何をやっても冴えないチャーリーは、父親の葬儀の日に衝撃の事実を告げられる。「あんたの父さんは神だったからね―」そしてある日、神の血を色濃く受け継ぐ、スパイダーという名のきょうだいが現れて、平凡だったチャーリーの人生は音を立てて崩れはじめた。アフリカ神話の神の血脈に連なる二人の青年。その正反対の生き方がぶつかって巻き起こるとんでもない事件とは…?!ありえない現実と真に迫る幻想が交錯する、ジェットコースター・ストーリー。

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初出メディア

TV Bros.

TV Bros. 2007年2月3日

多彩な連載陣のコラムが人気のポップカルチャーTV情報誌。豊﨑由美氏の書評コーナー「帝王切開金の斧」が好評連載中。

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