書評
『金色の獣、彼方に向かう』(双葉社)
恐怖と憧憬、異界への入り口
本書の著者は、昨今では珍しいほど、作風に特徴のある作家、といってよい。日本ホラー小説大賞の受賞者、というキャリアから想像されるほど、おどろおどろしくはない。かといって、ファンタジーと呼ぶには、手応えのありすぎる作風である。
収録4作品のうち、冒頭の「異神千夜」だけが、中世を舞台にした怪異譚(たん)で、あとは現代を背景にしている。「異神千夜」は、蒙古(もうこ)襲来に材をとった歴史もので、大陸生まれの美人巫術師(ふじゅつし)と、日本人の若者の愛憎を描く。「風天孔参り」「森の神、夢に還(かえ)る」と表題作は、いずれも異界への入り口にまつわる、恐怖と憧憬(しょうけい)をテーマにしている。
書かれた時期も違い、それぞれ独立した作品になっているが、〈鼬(いたち)〉や〈樹海〉といった共通の記号が出てくるので、連作とみなしてもいいだろう。
血なまぐさい話も出てくるが、著者の筆致は抑制がきいていて、いやみがない。独特のムードを持つ作品集だ。
朝日新聞 2012年1月8日
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