後書き

『物語北欧神話 上』(原書房)

  • 2019/03/21
物語北欧神話 上 / ニール・ゲイマン
物語北欧神話 上
  • 著者:ニール・ゲイマン
  • 翻訳:金原 瑞人,野沢 佳織
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(198ページ)
  • 発売日:2019-01-22
  • ISBN-10:4562056266
  • ISBN-13:978-4562056262
内容紹介:
霧と炎が支配する世界に巨人と神々が生まれた。彼らは定められた滅びへと突き進んでゆく――断片的な詩や散文からなる複雑な北欧神話を現代ファンタジーの巨匠が再話。後の創作物に多大な影響を与えた神々の物語がよみがえる。(上下巻)
語りの魔術師ニール・ゲイマンによって暴力と死と笑いに満ちた北欧神話が現代に蘇る。いや、襲いかかる。――金原瑞人


「神話は語り直す必要がある」訳者あとがきより

ゲイマンは序文から、読者を一気に北欧神話の世界へ誘いこむ。

六歳でアメリカンコミックの『マイティ・ソー』に夢中になった話から始めて、その後、ソーのことをもっと知りたいと思い、ソーの原型であるトールが登場する北欧神話の本を読んでみたところ、背景も登場する神々のイメージも『マイティ・ソー』とはずいぶん違って戸惑ったこと、しかし、ほかの神話とは違い、神々もいつかは死ぬ運命にあることから、北欧神話は「心にいつまでも残り、不思議と現実的に感じられた」こと……。

序文に続く短い数章で、メインキャストのオーディン、トール、ロキといった神々を紹介し、北欧神話の世界の成り立ちを簡潔に説明したあと、いきなり物語が始まる。
トールが、妻シヴの美しい金髪を一本残らず抜いてしまったロキの襟首をつかんで、「いますぐシヴの髪の毛をもとどおりにしろ。さもないと、おまえの体の骨を一本残らずへし折るぞ」とすごむ頃には、読者はもう、ゲイマンの語りにすっかりひきこまれていることだろう。

ゲイマンは、本書が刊行された直後のインタビューでこういっている。
「登場する神々や巨人には、いまの世界に生きている人々のように話させようと思った。八十年後に若い世代がこの本を読んで、『いまの言葉で書いてある北欧神話が読みたいな。ゲイマンのを読んでみたけど、古くさくて変な感じだから』といったとしても、かまわない。物語を語り直すときは、同時代を生きている人たちに向かって語ればいいんだ」。
また、こうもいっている。「神話は人間について教えてくれるし、ほんとうにおもしろくて、古びない。だから語り直す必要がある。ミュージシャンが古いフォークソングをいいなと思って、エレキギターでアレンジを加えて歌い、アルバムをつくるのと同じようなものかな」。

北欧神話の神々のなかで、最も危険なのがロキだ。
ロキは巨人の子だが、オーディンと義兄弟の契りを結んでいて、神々のひとりに位置づけられている。いたずら好きで悪知恵が働き、相手を巧みに操り、姿を自由に変えられる。トラブルメーカーでトリックスターなのだが、神々を危機から救うこともある。
本書でも上巻の「神々の宝物」「城壁づくり」などの章で、その狡猾でしたたかな活躍ぶりがユーモラスに語られるが、下巻の「バルドルの死」の章でロキの心の闇が露見すると、物語は一気に、神々の終焉、ラグナロクへとなだれこんでいく。
作者のロキへの興味と愛が全編ににじみ出ている。ゲイマンの描くロキは、思い切りいやなやつで、思い切り魅力的なやつなのだ。
北欧神話からロキをはずしたら、もう北欧でも神話でもなくなってしまう。これほど強烈な個性をもつ神が、ほかの神話にいるだろうか。ゲイマンが神話を語り直すとしたら、北欧神話しかなかったのだと思う。

ここで、作者のニール・ゲイマンについて記しておこう。
ゲイマンは一九六〇年、イングランド南部のハンプシャー州に生まれた。十代の頃から作家をめざし、インタビュー記事や書評を書く仕事を経て、八〇年代の終わりにコミック『サンドマン』の原作者として注目をあびた。
九〇年代には、小説第一作目の『グッド・オーメンズ』(テリー・プラチェットと共著)を始めとして、『ネバーウェア』『スターダスト』、二〇〇〇年以降は『アメリカン・ゴッズ』『アナンシの血脈』『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』などの作品を次々と発表して、多くの文学賞を受賞した。とくに『墓場の少年』はカーネギー賞とニューベリー賞(いずれも、すぐれた児童文学作品に贈られる賞)の両賞を受賞している。
詩や短編小説、子ども向けの本、映画やドラマの脚本なども執筆し、幅広く活躍している。世界じゅうに熱心なファンがいて、二〇一八年現在、ツイッターのフォロワー数が二百五十万人を超えている。

本書を読んだあとでぜひ読んでみてほしいのが、アメリカでドラマ化されて評判になっている『アメリカン・ゴッズ』。
現代のアメリカにやってきて生きのびているオーディンやトールやロキが、古今東西のあらゆる神々と人間とともに繰り広げる、壮大なダークファンタジーだ。 

[書き手]金原瑞人・野沢佳織(翻訳家)
物語北欧神話 上 / ニール・ゲイマン
物語北欧神話 上
  • 著者:ニール・ゲイマン
  • 翻訳:金原 瑞人,野沢 佳織
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(198ページ)
  • 発売日:2019-01-22
  • ISBN-10:4562056266
  • ISBN-13:978-4562056262
内容紹介:
霧と炎が支配する世界に巨人と神々が生まれた。彼らは定められた滅びへと突き進んでゆく――断片的な詩や散文からなる複雑な北欧神話を現代ファンタジーの巨匠が再話。後の創作物に多大な影響を与えた神々の物語がよみがえる。(上下巻)

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