書評
『ヒトラー』(白水社)
【名著 味読・再読】"ヒトラー研究"の金字塔
1998年に出版され、世界中でロングセラーとなっていた稀代の名著の日本語訳である。ヒトラーの前半生を追いかける「傲慢」、後半生を描く「天罰」、上下巻合わせて2000ページ近くに及ぶ圧巻の大作だ。ナチズム研究の世界的泰斗である著者はそもそも「伝記」という方法に懐疑的な立場を取る。ヒトラーという人物のみならず、彼を取り巻く「状況」の変遷を活写する。時系列で書かれているため、第三帝国の興隆と破滅を、まるでその場にいるかのように"追体験"できる。ナチスの悪魔的所業も、歴史を丹念に追い掛けていくと、小さな出来事の積み重ねの中で「自然」にそうなったということを思い知らされ、戦慄する。掛け値なしの決定版で、全人類必読の書にして後世への偉大な遺産である。