書評

『悪の哲学ノート』(岩波書店)

  • 2017/11/16
悪の哲学ノート / 中村 雄二郎
悪の哲学ノート
  • 著者:中村 雄二郎
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(362ページ)
  • 発売日:2012-10-24
  • ISBN-10:4000285513
  • ISBN-13:978-4000285513
内容紹介:
哲学は、“悪”の問題にどのように迫り得るか。スピノザ、シオラン、リクール、レヴィナス、D・H・ローレンスらとの思想的対話を通して、関係の解体、存在の欠如・過剰、穢れ、権力といった観点から、見えにくくなった悪の問題を根本的に問い直し、『悪霊』『白痴』などの独創的な読解によるドストエフスキー論を展開する。
題名から、悪についての徹底した哲学的考察を期待した読者は肩すかしを喰うだろう。本書はあくまでも「ノート」なのだ。著者は、悪と関係のありそうな著作を渡り歩く。いったい著者自身はどう考えているのと幾度も尋ねたくなったが、最後まで答えは見えてこない。

西田幾太郎をはじめ、善についての研究は山ほどあるが、悪の研究は少ない。これが本書を思いついた動機だと、著者は言う。たしかに日本人は、悪を考えるのが苦手だ。着眼は悪くない。だがそれにしては、悪を哲学するための道具だてが不足している。

正統の西欧哲学は、悪を「善の欠如」と規定してきた。いっぽう著者は、悪を「存在の過剰」と考えるグノーシス派や、ヨハネ黙示録を反キリスト的テキストと考えるD・H・ロレンスをヒントにする。

本書の前半はこうした道具だての紹介であるが、後半はドストエフスキーの小説に話がとぶ。このつながりがよくわからない。『悪霊』をはじめとする作品に、黙示録の寓意がちりばめられているというのが著者の指摘だが、「悪の哲学」はほとんど展開されておらず、小説のプロット紹介が大部分のページを占めている。

「悪」をとりあえずの行き先にした、哲学散歩、文学散歩として、本書を楽しむ読者もいるのだろう。あいにく私はそんなに暇でない。続編を考えているという著者には、ずばり悪の核心を突く展開をこそ期待したい。

【この書評が収録されている書籍】
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003 / 橋爪 大三郎
書評のおしごと―Book Reviews 1983‐2003
  • 著者:橋爪 大三郎
  • 出版社:海鳥社
  • 装丁:単行本(382ページ)
  • ISBN-10:4874155421
  • ISBN-13:978-4874155424
内容紹介:
1980年代、現代思想ブームの渦中に登場以来、国内外の動向・思潮を客観的に見据えた著作と発言で論壇をリードしてきた橋爪大三郎が、20年間にわたり執筆した書評を初めて集成。明快な思考で知られる著者による、書評の最良の教科書。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

悪の哲学ノート / 中村 雄二郎
悪の哲学ノート
  • 著者:中村 雄二郎
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(362ページ)
  • 発売日:2012-10-24
  • ISBN-10:4000285513
  • ISBN-13:978-4000285513
内容紹介:
哲学は、“悪”の問題にどのように迫り得るか。スピノザ、シオラン、リクール、レヴィナス、D・H・ローレンスらとの思想的対話を通して、関係の解体、存在の欠如・過剰、穢れ、権力といった観点から、見えにくくなった悪の問題を根本的に問い直し、『悪霊』『白痴』などの独創的な読解によるドストエフスキー論を展開する。

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初出メディア

I feel(終刊)

I feel(終刊) 1995年3月

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