書評

『死を見つめる美術史』(筑摩書房)

  • 2017/11/28
死を見つめる美術史 / 小池 寿子
死を見つめる美術史
  • 著者:小池 寿子
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(246ページ)
  • 発売日:2006-10-01
  • ISBN-10:4480090193
  • ISBN-13:978-4480090195
内容紹介:
死をめぐる旅はトスカナ州の小村モンテリッジョーニから始まる。「メメント・モリ(死を想え)」の低く静かな声がこの旅の道連れだ。季節の移ろいに生の歩みを重ね、死者たちとの語らいのなかで… もっと読む
死をめぐる旅はトスカナ州の小村モンテリッジョーニから始まる。「メメント・モリ(死を想え)」の低く静かな声がこの旅の道連れだ。季節の移ろいに生の歩みを重ね、死者たちとの語らいのなかで人間と芸術の来し方行く末に思いを馳せる。死と哀悼の風景、腐敗死体像と墓碑彫刻、死者への鎮魂、霊魂のかたち、運命の寓意表現。死のトポスを経巡り、水という元素界にいたって円環を閉じる。「生きながら死に、死にながら生きる」―図像研究から宇宙論・運命論の形而上学的世界に向けて思索を深めるとともに、死の表現を読み取り、その豊かな想像力をたどる。
死体や臨終、哀悼など死についてのさまざまな図像を取り上げ、古代から近世に至るまで、死にまつわる情念がヨーロッパやメソポタミア文明においてどのように表現されたかについて、五つのテーマに分けてわかりやすく紹介されている。

身内を失う悲しみは、かつて胸部や頭部を叩く身振りや、髪のみだれによって表現されていたが、それを変えたのはキリスト教であった。人間の傲慢さを戒め、生のはかなさを悟らせるため、死体の腐敗が美術表現の対象となったが、骸骨が描かれるようになったのは解剖学が誕生した後である。霊魂はつばさを持つ鳥や蝶々として、あるいは裸の赤子として表象されていたが、運命はくるくる回る車輪に象徴されていた。いずれもフィリップ・アリエス『死と歴史』にはない指摘である。

本書は西洋美術を知る上でも役に立つが、東洋の生死観や服喪の慣習、九相の絵解きなどと比較し、東西の共通点や相違点を思い浮かべながら読むと、いっそう興味がそそられる。

【この書評が収録されている書籍】
本に寄り添う Cho Kyo's Book Reviews 1998-2010 / 張 競
本に寄り添う Cho Kyo's Book Reviews 1998-2010
  • 著者:張 競
  • 出版社:ピラールプレス
  • 装丁:単行本(408ページ)
  • 発売日:2011-05-28
  • ISBN-10:4861940249
  • ISBN-13:978-4861940248
内容紹介:
読み巧者の中国人比較文学者が、13年の間に書いた書評を集大成。中国関係の本はもとより、さまざまな分野の本を紹介・批評した、世界をもっと広げるための"知"の読書案内。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

死を見つめる美術史 / 小池 寿子
死を見つめる美術史
  • 著者:小池 寿子
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(246ページ)
  • 発売日:2006-10-01
  • ISBN-10:4480090193
  • ISBN-13:978-4480090195
内容紹介:
死をめぐる旅はトスカナ州の小村モンテリッジョーニから始まる。「メメント・モリ(死を想え)」の低く静かな声がこの旅の道連れだ。季節の移ろいに生の歩みを重ね、死者たちとの語らいのなかで… もっと読む
死をめぐる旅はトスカナ州の小村モンテリッジョーニから始まる。「メメント・モリ(死を想え)」の低く静かな声がこの旅の道連れだ。季節の移ろいに生の歩みを重ね、死者たちとの語らいのなかで人間と芸術の来し方行く末に思いを馳せる。死と哀悼の風景、腐敗死体像と墓碑彫刻、死者への鎮魂、霊魂のかたち、運命の寓意表現。死のトポスを経巡り、水という元素界にいたって円環を閉じる。「生きながら死に、死にながら生きる」―図像研究から宇宙論・運命論の形而上学的世界に向けて思索を深めるとともに、死の表現を読み取り、その豊かな想像力をたどる。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2000年1月30日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

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