書評

『フォレスト・ガンプ』(講談社)

  • 2017/11/27
フォレスト・ガンプ  / ウィンストン グルーム
フォレスト・ガンプ
  • 著者:ウィンストン グルーム
  • 翻訳:小川 敏子
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(334ページ)
  • ISBN-10:4062647680
  • ISBN-13:978-4062647687
内容紹介:
知能指数は並以下だが、多くの才能に恵まれたフォレスト・ガンプ。スポーツをすればたちまちスター。ベトナム戦争では名誉勲章。果ては宇宙飛行士として宇宙に飛び立つ。大切な人への想いを胸に抱いて、フォレストは無垢な心のまま激動の時代を生きていく。世界中に社会現象を巻き起こした痛快な冒険談。

ガンプ! もっと、アホになれ!

『フォレスト・ガンプ』(ウィンストン・グルーム著、小川敏子訳、講談社)を読んだ。最初に結論からいうと、これはいろんなベストセラーからよさそうなところをひっぱってきた本だなと思った。タイトルの『フォレスト・ガンプ』からしてジョン・アーヴィングの『ガープの世界』みたいだなあと思ったら果たせるかなアーヴィングっぽいプロレスシーンが出てきたり、ちょっと『アルジャーノンに花束を』っぼかったり、ベトナム戦争を描いたところではヘラーの『キャッチ=22』やオブライエンの『カチアートを追跡して』を頭の隅に入れたような書き方をしていたりして、いや目配りのきいた作者だなあと感心した。別に他の作者のいいところを輸入するのはわるくないので、どんどんやればいいのだけど、アーヴィングやヘラーに比べたらまるで「薄味」と感じる読者もいるかもしれない。けれど、この小説の場合、主人公の「ぼく」のIQは70に少し足りないぐらいで「頭がわるい」という設定になっているので、なにを書いても「薄味」でなきゃおかしいのだ。

ガープの世界〈上〉  / ジョン アーヴィング
ガープの世界〈上〉
  • 著者:ジョン アーヴィング
  • 翻訳:筒井 正明
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(446ページ)
  • 発売日:1988-10-28
  • ISBN-10:4102273018
  • ISBN-13:978-4102273012
内容紹介:
看護婦ジェニーは重体の兵士と「欲望」抜きのセックスをして子供を作った。子供の名はT・S・ガープ。やがて成長したガープは、ふとしたきっかけで作家を志す。文章修業のため母ジェニーと赴いたウィーンで、ガープは小説の、母は自伝の執筆に励む。帰国後、ジェニーが書いた『性の容疑者』はベストセラーとなるのだが-。現代アメリカ文学の輝ける旗手アーヴィングの自伝的長編。

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アルジャーノンに花束を〔新版〕 / ダニエル・キイス
アルジャーノンに花束を〔新版〕
  • 著者:ダニエル・キイス
  • 翻訳:小尾 芙佐
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(464ページ)
  • 発売日:2015-03-13
  • ISBN-10:4150413339
  • ISBN-13:978-4150413330
内容紹介:
累計320万部の不朽の名作が新版に。野島伸司脚本監修、山下智久主演で連続ドラマ化が決定。知を求める青年チャーリイの苦悩と愛の物語。

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キャッチ=22〔新版〕  / ジョーゼフ・ヘラー
キャッチ=22〔新版〕
  • 著者:ジョーゼフ・ヘラー
  • 翻訳:飛田 茂雄
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(448ページ)
  • 発売日:2016-03-09
  • ISBN-10:4151200835
  • ISBN-13:978-4151200830
内容紹介:
強烈なブラック・ユーモアと不条理で戦争を描いたアメリカ文学の傑作!解説/松田青子

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カチアートを追跡して  / ティム・オブライエン
カチアートを追跡して
  • 著者:ティム・オブライエン
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(549ページ)
  • ISBN-10:4102042113
  • ISBN-13:978-4102042113

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ぼくは、昔から「頭がわるい」人間を主人公にした小説には深甚なる興味を抱いている。彼を主人公にするのは実に小説向きの手法のひとつで、「頭がわるい」人間はものごとを単純に見る。ものごとは単純に見るほど日常生活で見えるものと違って見えてくる。それがなにより小説の醍醐味なのだ。なにしろ、最初の近代小説『ドン・キホーテ』の主人公ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャことアロンソ・キハーノは自他共に認める「頭のわるい」(というより彼の場合は「頭の働きが通常の人間とは異なっている」というべきかもしれないが)人間だったのだ。そういう「頭のわるい」人間は小説の主人公の王道なのである。『フォレスト・ガンプ』の作者もそのことには気づいているらしく、主人公のガンプに「頭がわるい人間のことならまかせてくれ。くわしいと自慢できるのはこれについてくらいだ。本をたくさん読んだからね」と、ドストエフスキーの『白痴』や『リア王』やフォークナーの描いたベンジーについて言及させている。

「本のなかで馬鹿と言われている人間は、ばか呼ばわりする人間たちよりも絶対にりこうだ。それはまったくその通り。頭のわるい人間ならすぐわかることさ」

それはまったくその通りなのかもしれないが、そういうまっとうなことをいっちゃうところに『フォレスト・ガンプ』の欠陥があるのではないか。つまり、フォレスト・ガンプは日常生活をおくるには充分「頭がわるい」かもしれないが、小説の主人公としては充分「頭がわるい」とはいえないのである。

フォレスト・ガンプは体が大きくて性格が優しくてややIQは低いが、まったく普通の人間というべきであり、その行動によって他の人間を害しようという意志はない(し、概ね安全である)。同じ「アホ」でも、ドストエフスキーの「アホ」は、他の人間の魂を暗黒に突き落とす。武者小路実篤の「アホ」は筋金入りで、フォレスト・ガンプよりIQは高いが、そのIQの高い分だけ余計「アホ」に見えるという特異な例で、絶対万人の感動を呼んだりはしない。いや、テリー伊藤の演出された「アホ」くささを横に置くなら、フォレスト・ガンプはどうしても良心的インテリに見えてしまう。

タカハシはけっこう楽しく『フォレスト・ガンプ』を読んだが、最後にどうしてもこう呟いてしまうのだけは止めることができなかったのだ。

「ガンプ! もっと、アホになれ!」

【この書評が収録されている書籍】
いざとなりゃ本ぐらい読むわよ / 高橋 源一郎
いざとなりゃ本ぐらい読むわよ
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:朝日新聞社
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • 発売日:1997-10-00
  • ISBN-13:978-4022571922
内容紹介:
どんな本にも謎がある。世界一の文学探偵タカハシさんが読み解く本の事件簿、遂に登場。

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フォレスト・ガンプ  / ウィンストン グルーム
フォレスト・ガンプ
  • 著者:ウィンストン グルーム
  • 翻訳:小川 敏子
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(334ページ)
  • ISBN-10:4062647680
  • ISBN-13:978-4062647687
内容紹介:
知能指数は並以下だが、多くの才能に恵まれたフォレスト・ガンプ。スポーツをすればたちまちスター。ベトナム戦争では名誉勲章。果ては宇宙飛行士として宇宙に飛び立つ。大切な人への想いを胸に抱いて、フォレストは無垢な心のまま激動の時代を生きていく。世界中に社会現象を巻き起こした痛快な冒険談。

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初出メディア

週刊朝日

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