書評

『石川くん』(集英社)

  • 2017/12/03
石川くん  / 枡野 浩一
石川くん
  • 著者:枡野 浩一
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(240ページ)
  • 発売日:2007-04-20
  • ISBN-10:408746153X
  • ISBN-13:978-4087461534
内容紹介:
「啄木の短歌は、とんでもない!」と糸井重里さんも驚嘆。親孝行で清貧という石川啄木のイメージは大誤解だった!?本当は仕事をサボって友達に借金をしては女の人と…。そんなサイテーな、だけど… もっと読む
「啄木の短歌は、とんでもない!」と糸井重里さんも驚嘆。親孝行で清貧という石川啄木のイメージは大誤解だった!?本当は仕事をサボって友達に借金をしては女の人と…。そんなサイテーな、だけど憎めない「石川くん」をユーモラスに描いた爆笑エッセイ集。"一度でも俺に頭を下げさせた/やつら全員/死にますように"など、啄木の短歌には衝撃の現代語訳つき。朝倉世界一の可愛いイラストも満載。
今年の日本文学の収穫のひとつに、温故知新のコラボレーションがあるのではないだろうか。 高橋源一郎の『日本文学盛衰史』『官能小説家』、笙野頼子の『幽界森娘異聞』、堀江敏幸の『いつか王子駅で』など。そうした作品の背景にあるのは、「昔の作家はいいよねー」なんて暢気な懐古趣味ではない。もっとアグレッシヴな心情を窺わせるのだ。「元気よくなろうぜ、ブンガクッ!」って、そんな書き手・読み手双方を鼓舞するような、苛立ちにも似た戦いの姿勢が見え隠れするのだ。

そこでだ、電車ん中で短い脚広げて二・五人分ものシートを独占しているケータイ兄ちゃん、ちょいメールから目を離してこの本を読んでみんかね。ダイジョーブだって、『石川くん』には難しい漢字出てこないから。第一、タイトルからしてフレンドリーでしょーが。この本には、『日本文学盛衰史』って小説の中でブルセラショップの店長やったり、伝言ダイヤルにハマッちゃったりした石川啄木のことが書かれてんの。そうそう、泣き濡れて蟹とたわむれちゃうヘンな人。で、この本書いてる枡野浩一は現代歌人なのね、「無駄だろう? 意味ないだろう? 馬鹿だろう? 今さらだろう? でもやるんだよ!」みたいな超カッコイイ短歌をいくつも作ってる人。そいで、そんなマスノくんが石川くんの歌とマジっすか対決してるのが、この本なわけ。

たとえば「不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心」を「十五歳/お城の草に寝ころんで/空に吸われてしまった心」と変奏したのは巧(うま)いよね。「十五歳」って頭に持ってったのが、いいセンス。かと思うと、マスノくんの分が悪い歌もあんの。「はたらけど/はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る」を「がんばっているんだけどな/いつまでもこんな調子だ/じっと手を見る」にしてるんだけど、「はたらけどはたらけど猶」っていう調子のいい畳みかけには勝ててないって感じ?

そんな風に石川くんの有名な歌と自分の個性をガチンコ勝負させる一方でマスノくんは、石川くんの借金したり、女遊びしたり、会社を無断欠勤したり、ママをいじめたり、友達を嫉んだり恨んだりっていう、結構陰惨な”生活と意見”を抽出して、愛情溢れる辛辣な評を下したりもしてんの。それが鋭いやらおかしいやらで、笑いながら読んでいるうちに、教科書でしか知らなかったデコピンの童顔歌人が3D映像みたいに活き活きと立ち上がってくるんだよー。

これが温故知新の戦うコラボレーションなんだと思う。こうやって過去の作品は今に蘇り、現代作家は新しいブンガクを発見していくんじゃないかなあ。あ、そうそう、この文章はね、最初、糸井重里が運営している〈ほば日刊イトイ新聞〉ってサイトで連載されてたんだよ。キミのiモードでも見られるんだって。そう考えると、ケータイも悪くはないけど、でも、やっば本も読もーよね。あと、おっぴろげの股は即刻閉じるように!

【この書評が収録されている書籍】
正直書評。 / 豊崎 由美
正直書評。
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:学習研究社
  • 装丁:単行本(228ページ)
  • 発売日:2008-10-00
  • ISBN-10:4054038727
  • ISBN-13:978-4054038721
内容紹介:
親を質に入れても買って読め!図書館で借りられたら読めばー?ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!ベストセラーや名作、人気作家の話題作に、金、銀、鉄、3本の斧が振り下ろされる。

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石川くん  / 枡野 浩一
石川くん
  • 著者:枡野 浩一
  • 出版社:集英社
  • 装丁:文庫(240ページ)
  • 発売日:2007-04-20
  • ISBN-10:408746153X
  • ISBN-13:978-4087461534
内容紹介:
「啄木の短歌は、とんでもない!」と糸井重里さんも驚嘆。親孝行で清貧という石川啄木のイメージは大誤解だった!?本当は仕事をサボって友達に借金をしては女の人と…。そんなサイテーな、だけど… もっと読む
「啄木の短歌は、とんでもない!」と糸井重里さんも驚嘆。親孝行で清貧という石川啄木のイメージは大誤解だった!?本当は仕事をサボって友達に借金をしては女の人と…。そんなサイテーな、だけど憎めない「石川くん」をユーモラスに描いた爆笑エッセイ集。"一度でも俺に頭を下げさせた/やつら全員/死にますように"など、啄木の短歌には衝撃の現代語訳つき。朝倉世界一の可愛いイラストも満載。

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初出メディア

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- 2002年1月2-16日号

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