書評

『パラサイト・イヴ』(新潮社)

  • 2018/01/09
パラサイト・イヴ  / 瀬名 秀明
パラサイト・イヴ
  • 著者:瀬名 秀明
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(560ページ)
  • 発売日:2007-01-30
  • ISBN:4101214344
内容紹介:
事故で亡くなった愛妻の肝細胞を密かに培養する生化学者・利明。Eve 1と名付けられたその細胞は、恐るべき未知の生命体へと変貌し、利明を求めて暴走をはじめる-。空前絶後の着想と圧倒的迫力に満ちた描写で、読書界を席巻したバイオ・ホラー小説の傑作。新装版刊行に際して、発表時に研究者でもあった著者から、科学者あるいは小説家を志す人達に贈る、熱いロングメッセージを収録。

『パラサイト・イヴ』を読みながら考えた

先週はヨーロッパへの往復の飛行機の中で『パラサイト・イヴ』(瀬名秀明著、角川書店)を読んだ。この日本ホラー小説大賞を受賞した作品は腰巻によると「27歳。恐るべき新世代作家の誕生。《人間》という種そのものをくつがえす、未曾有の脅威。衝撃の大長編!荒俣宏、景山民夫、高橋克彦、林真理子、全選考委員絶賛の嵐””」なのである。腰巻はこうでなくちゃならない――とここまで書いて、届いたばかりの「本の雑誌」をぱらぱらめくっていたら三省堂書店本店の「21世紀の文豪55人」フェアのことが出ていた。このフェアではいたるところに手書きのポップ(よく書店で本の横に立ててある広告)が掲げられていて、それがなんと著者直筆なのである。つまり、作家自身による自作の広告なのね。日頃、批評家にトンチンカンなことばかり言われ、自作の新聞広告を見て「なんかちがうなあ」と思っていた作家たちが「こう宣伝して欲しいんだあ!」と自らコピー案文をひねり出した(?)のである。

たとえば、室井光広さんの『おどるでく』のコピーは〈難解ではありません〉。泣けるなあ。山本昌代さんがこの前三島賞をとった『緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道』が〈短いですから読んでください〉。完壁ですね。竹野雅人さんは『私の自叙伝前篇』で〈本当の私はどれでしょう?〉と書いて四人の顔写真を貼りつけている。この部分は雑誌ではちっちゃくて不鮮明だが、少なくとも②番の写真は遠藤実ではないかと思いますが。ちなみに、奥泉光さんは五つの作品にそれぞれ〈快心作〉〈問題作〉〈傑作〉〈自信作〉〈出世作〉と書かれたそうだ。奥泉さんは、作品は硬骨だが、たいへん茶目っ気のある方なのである。いやあ、ぼくだったらなんて書くかなあと思っていて、不意にとんでもないことを思い出してしまった。このフェアにぼくもポップを頼まれていたのだ……。出すの忘れちゃってました。三省堂のみなさん、ゴメンナサイ。罰として、以降、ぼくの本を置かないなどと言わないでくださいまし、なんでもやりますから。

おお、飛行機の中で読んだ『パラサイト・イヴ』のことを忘れていたぞ。

とにかく、この時の読書は本にとってたいへん厳しい状況であった。例によって、家を出る直前まで荷物を作ったり、締め切りに間に合わせるため原稿を書いたりしてほとんど徹夜に近かった上に、エプソムダービーの検討のために出走馬の資料も読まなくてはならない。おまけに、おばさんの団体が乗っていて、前後左右でずっとおしゃべりをしてるんだ。ほら、ほら、スッチーが「通路で立ち止まって話さないでください」って言ってるじゃないかあ。

以上のような状況で読まなければならなかったにも拘わらず、この読書はたいへん刺激的だったことはご報告しておきたい。しかし、途中でしょっちゅう、いろんなことが頭に浮かんでしまうのは、やっぱり頭に充分酸素が供給されてなかったからではあるまいか。

この小説の「主人公」であるミトコンドリア(これに触れた選評が本に収録されているので、バラシてもかまうまい)はいったいどうやって「考えたり」、記憶を保存しているのか、とか、「それ」の描写はやっぱり(マイクル・クライトンなんかと同じく最近流行りの)SFX映画そのものなんだけど、言葉でしか書けない描写ってのは古いんだろうか、とぼんやり考えながら、おばさんたちの嬌声が響くVS901の中でぼくは頁をめくっていたのだった。

【この書評が収録されている書籍】
いざとなりゃ本ぐらい読むわよ / 高橋 源一郎
いざとなりゃ本ぐらい読むわよ
  • 著者:高橋 源一郎
  • 出版社:朝日新聞社
  • 装丁:単行本(253ページ)
  • ASIN: 4022571926

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

パラサイト・イヴ  / 瀬名 秀明
パラサイト・イヴ
  • 著者:瀬名 秀明
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(560ページ)
  • 発売日:2007-01-30
  • ISBN:4101214344
内容紹介:
事故で亡くなった愛妻の肝細胞を密かに培養する生化学者・利明。Eve 1と名付けられたその細胞は、恐るべき未知の生命体へと変貌し、利明を求めて暴走をはじめる-。空前絶後の着想と圧倒的迫力に満ちた描写で、読書界を席巻したバイオ・ホラー小説の傑作。新装版刊行に際して、発表時に研究者でもあった著者から、科学者あるいは小説家を志す人達に贈る、熱いロングメッセージを収録。

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初出メディア

週刊朝日

週刊朝日

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