書評
『東欧怪談集』(河出書房新社)
どんな摩訶(まか)不思議な現象であれ、奇怪な出来事であれ、最終的には論理的かつ合理的な説明を見いだして読者を納得させ、その精神に安定を与えた上で現実世界へ引き戻してくれるのが推理小説だとすると、ここに収められた東欧九ヵ国二六編の小品はどれもその逆を狙っている。
そのせいだろうか、どの話も短いのに妙に後を引いてまいってしまう。
子供用に改ざんされた怪談によくある「勧善懲悪」とまでは言わないものの、四谷怪談や番町皿屋敷や雪女のような「因果応報」的つじつま合わせもない。これは怖い。
雪の夜、突然途絶えた足跡の謎をめぐる人間たちの対応をユーモラスに扱った「足あと」、こぶがみるみる人間の形になり当の人間を駆逐してしまうという寓話(ぐうわ)「こぶ」、恋い焦がれた女と密会を重ねるうちに相手が下半身だけになってしまった「シャモタ氏の恋人」、夜ごと村を荒らし恋女房を訪れる亡霊を村人たちが銃撃したところ、女房を撃ち殺してしまった「吸血鬼」、そして妻を殺害した男が隠した死体が見つからないため刑事罰は免れたものの幻覚に悩まされ廃人になっていく「東スラヴ人の歌」など。
どれも決して後味がいいとは言い難いが、常日ごろ潜在意識下に追いやって気づかないふりをしている強迫観念や幻覚という、人間の持つもう一つの果てしなく奥深く豊かな世界に引きずり込んでくれる。
【この書評が収録されている書籍】
 
 そのせいだろうか、どの話も短いのに妙に後を引いてまいってしまう。
子供用に改ざんされた怪談によくある「勧善懲悪」とまでは言わないものの、四谷怪談や番町皿屋敷や雪女のような「因果応報」的つじつま合わせもない。これは怖い。
雪の夜、突然途絶えた足跡の謎をめぐる人間たちの対応をユーモラスに扱った「足あと」、こぶがみるみる人間の形になり当の人間を駆逐してしまうという寓話(ぐうわ)「こぶ」、恋い焦がれた女と密会を重ねるうちに相手が下半身だけになってしまった「シャモタ氏の恋人」、夜ごと村を荒らし恋女房を訪れる亡霊を村人たちが銃撃したところ、女房を撃ち殺してしまった「吸血鬼」、そして妻を殺害した男が隠した死体が見つからないため刑事罰は免れたものの幻覚に悩まされ廃人になっていく「東スラヴ人の歌」など。
どれも決して後味がいいとは言い難いが、常日ごろ潜在意識下に追いやって気づかないふりをしている強迫観念や幻覚という、人間の持つもう一つの果てしなく奥深く豊かな世界に引きずり込んでくれる。
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