書評

『世界文学のフロンティア〈3〉夢のかけら』(岩波書店)

  • 2020/10/27
世界文学のフロンティア〈3〉夢のかけら / ダニロ・キシュ,ガブリエル・ガルシア=マルケス,ステーファノ・ベンニ,スタニスワフ・レム,イスマイル・カダレ,ヴィスワヴァ・シンボルスカ,ヴォルフガング・ヒルビッヒ,ボフミル・フラバル,残雪,他
世界文学のフロンティア〈3〉夢のかけら
  • 著者:ダニロ・キシュ,ガブリエル・ガルシア=マルケス,ステーファノ・ベンニ,スタニスワフ・レム,イスマイル・カダレ,ヴィスワヴァ・シンボルスカ,ヴォルフガング・ヒルビッヒ,ボフミル・フラバル,残雪,他
  • 翻訳:沼野 充義,山崎 佳代子,旦 敬介,和田 忠彦,長谷見 一雄,平岡 敦,園田 みどり,赤塚 若樹,近藤 直子,有賀 祐子,早稲田 みか
  • 編集:今福 龍太,沼野 充義,四方田 犬彦
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(269ページ)
  • 発売日:1997-01-10
  • ISBN-10:4000261436
  • ISBN-13:978-4000261432
内容紹介:
ユートピアの喪失,イデオロギーへの不信…「大きな物語」が砕け散ったとき,歴史や社会はどのように見つめられるのか.断片となった夢は,小さな記憶の集積として,また時空を超える乗り物として,現代の奥底を照らし,未来に乱反射する.蕩尽された未来のために / 沼野充義 [著]死者の百科事典(生… もっと読む
ユートピアの喪失,イデオロギーへの不信…「大きな物語」が砕け散ったとき,歴史や社会はどのように見つめられるのか.断片となった夢は,小さな記憶の集積として,また時空を超える乗り物として,現代の奥底を照らし,未来に乱反射する.
蕩尽された未来のために / 沼野充義 [著]
死者の百科事典(生涯のすべて) / ダニロ・キシュ [著] ; 山崎佳代子訳
海岸のテクスト / ガブリエル・ガルシア=マルケス [著] ; 旦敬介訳
最後の涙 / ステーファノ・ベンニ [著] ; 和田忠彦訳
一分間 / スタニスワフ・レム [著] ; 長谷見一雄訳
災厄を運ぶ男 / イスマイル・カダレ [著] ; 平岡敦訳
ユートピア / ヴィスワヴァ・シンボルスカ [著] ; 沼野充義訳
奇跡の市 / ヴィスワヴァ・シンボルスカ [著] ; 沼野充義訳
ゆるぎない土地 / ヴォルフガング・ヒルビッヒ [著] ; 園田みどり訳
魔法のフルート / ボフミル・フラバル [著] ; 赤塚若樹訳
かつて描かれたことのない境地 / 残雪 [著] ; 近藤直子訳
コサック・ダヴレート / アナトーリイ・キム [著] ; 有賀祐子訳
ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし : 見えない都市 / エステルハージ・ペーテル [著] ; 早稲田みか訳
金色のひも / アブラム・テルツ [著] ; 沼野充義訳
最近の岩波はえらい。中国のガルシア=マルケスとの呼び声も高い莫言の大々々々々傑作『酒国』(未読の方、走れ本屋へ!)を訳してくれたうえ、有名作家の本だってそんなに売れないこのご時勢に、「世界文学のフロンティア」なんていう超マイナーなシリーズまで刊行してくれるんだから。ホントに涙が出るほどえらいぞっ、岩波!(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1997年)

とりあえず、この第三巻『夢のかけら』に名を連ねている作家を見てほしい。ガルシア=マルケスやスタニスワフ・レムといった大御所は別として、日本では翻訳がちらほらとしか出ていない作家ばかりなんである。『若き日の哀しみ』(東京創元社)のダニロ・キシュ、『聖女チェレステ団の悪童』(集英社)のステファノ・ベンニ、『誰がドルンチナを連れ戻したか』(白水社)や『夢宮殿』(東京創元社)のイスマイル・カダレ、『蒼老たる浮雲』『カッコウが鳴くあの一瞬』(いずれも白水社/河出書房新社)の残雪(ツァン・シュエ)――不勉強なわたしにはそのくらいの既訳本しか思い浮かばない。九六年のノーベル文学賞受賞詩人のヴィスワヴァ・シンボルスカ、ドイツのヴォルフガング・ヒルビッヒ、チェコのボフミル・フラバル、朝鮮系ロシアのアナートリイ・キム、ハンガリーのエステルハージ・ぺーテル、ロシアのアブラム・テルツ――彼らの作品に触れるのは、わたしにとって本書が初めてなのだ。

が、彼らがマイナーであれど小さな巨人であることは一読瞭然。名もない死者の生涯のディテールが記された百科事典の存在を夢想したキシュの『死者の百科事典』にしみじみ胸を打たれ、定刻発車の列車に乗り遅れもはやどこにも行き場を失ってしまった男が経験する不条理を描いたヒルビッヒの『ゆるぎない土地』に不安をかき立てられ、「架空の本の書評」の形式を取ったレムの『一分間』に知的興奮を覚え、現代文学の言葉遊びぶりを揶揄したテルツの『金色のひも』にニヤリとする。時代の予言者たる優れた作家十二人が幻視した夢の短編(かけら)を読めば、まさに文学にはまだまだ開拓の可能性を秘めたフロンティアが存在するということがわかる。これはそんなアンソロジー集なのだ。このシリーズはすでに四冊が刊行されていて、完結は全六巻。すべて読めば、きっと、あなたもいっぱしの文学通。みんなでえらい岩波を応援してあげよう!

【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

世界文学のフロンティア〈3〉夢のかけら / ダニロ・キシュ,ガブリエル・ガルシア=マルケス,ステーファノ・ベンニ,スタニスワフ・レム,イスマイル・カダレ,ヴィスワヴァ・シンボルスカ,ヴォルフガング・ヒルビッヒ,ボフミル・フラバル,残雪,他
世界文学のフロンティア〈3〉夢のかけら
  • 著者:ダニロ・キシュ,ガブリエル・ガルシア=マルケス,ステーファノ・ベンニ,スタニスワフ・レム,イスマイル・カダレ,ヴィスワヴァ・シンボルスカ,ヴォルフガング・ヒルビッヒ,ボフミル・フラバル,残雪,他
  • 翻訳:沼野 充義,山崎 佳代子,旦 敬介,和田 忠彦,長谷見 一雄,平岡 敦,園田 みどり,赤塚 若樹,近藤 直子,有賀 祐子,早稲田 みか
  • 編集:今福 龍太,沼野 充義,四方田 犬彦
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(269ページ)
  • 発売日:1997-01-10
  • ISBN-10:4000261436
  • ISBN-13:978-4000261432
内容紹介:
ユートピアの喪失,イデオロギーへの不信…「大きな物語」が砕け散ったとき,歴史や社会はどのように見つめられるのか.断片となった夢は,小さな記憶の集積として,また時空を超える乗り物として,現代の奥底を照らし,未来に乱反射する.蕩尽された未来のために / 沼野充義 [著]死者の百科事典(生… もっと読む
ユートピアの喪失,イデオロギーへの不信…「大きな物語」が砕け散ったとき,歴史や社会はどのように見つめられるのか.断片となった夢は,小さな記憶の集積として,また時空を超える乗り物として,現代の奥底を照らし,未来に乱反射する.
蕩尽された未来のために / 沼野充義 [著]
死者の百科事典(生涯のすべて) / ダニロ・キシュ [著] ; 山崎佳代子訳
海岸のテクスト / ガブリエル・ガルシア=マルケス [著] ; 旦敬介訳
最後の涙 / ステーファノ・ベンニ [著] ; 和田忠彦訳
一分間 / スタニスワフ・レム [著] ; 長谷見一雄訳
災厄を運ぶ男 / イスマイル・カダレ [著] ; 平岡敦訳
ユートピア / ヴィスワヴァ・シンボルスカ [著] ; 沼野充義訳
奇跡の市 / ヴィスワヴァ・シンボルスカ [著] ; 沼野充義訳
ゆるぎない土地 / ヴォルフガング・ヒルビッヒ [著] ; 園田みどり訳
魔法のフルート / ボフミル・フラバル [著] ; 赤塚若樹訳
かつて描かれたことのない境地 / 残雪 [著] ; 近藤直子訳
コサック・ダヴレート / アナトーリイ・キム [著] ; 有賀祐子訳
ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし : 見えない都市 / エステルハージ・ペーテル [著] ; 早稲田みか訳
金色のひも / アブラム・テルツ [著] ; 沼野充義訳

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初出メディア

チッタ(終刊)

チッタ(終刊) 1997年5月号

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