書評

『ソラリス』(早川書房)

  • 2017/07/04
ソラリス  / スタニスワフ・レム
ソラリス
  • 著者:スタニスワフ・レム
  • 翻訳:沼野 充義
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(432ページ)
  • 発売日:2015-04-08
  • ISBN-10:4150120005
  • ISBN-13:978-4150120009
内容紹介:
惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいった… もっと読む
惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が? ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か? ――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版。

理解を超えた知性

古今東西のSF作家の中で、最高の知性の持ち主は誰か? 作品から判断する限り、最有力候補は、ポーランドのスタニスワフ・レム。その天才が、人類とは異質な知性を正面から描き出した『ソラリス』は、近年のオールタイムベストSF投票で不動の1位を保つ名作中の名作。タルコフスキー監督とソダーバーグ監督による二度の映画化でご存じのかたも多いだろう。

1961年に出た本書のおかげで、シリアスなSFに描かれる地球外知性(宇宙人)のありようが一変。それまでは、友好的にしろ敵対的にしろ「なかなか言葉の通じない外国人」レベルの異質さだったのが、もっと根源的な意味で人間の理解を阻む(可能性がある)存在になってしまったんですね。

舞台は、知性を持つ海に覆われた惑星ソラリスの上空に浮かぶ研究ステーション。新たに派遣されてきた心理学者ケルヴィンは、自殺した恋人ハリーと遭遇する。そこにいるはずのない人間--研究員が「お客さん」と呼ぶ彼らの正体とは?

「お客さん」を幽霊と考えれば、比類ない恐怖小説だし、ソラリスの海の動機を探るミステリとも、切ない悲恋物語とも読める。SF的な白眉(はくび)は、この(架空の)地球外知性について徹底的に考え抜いた(架空の)大著『ソラリス研究の十年』を紹介した部分。ものすごく真剣に築かれた嘘(うそ)八百の学術体系は、半世紀後のいま読んでもものすごくスリリングで面白い。

今年4月に、ハヤカワ文庫SFの通巻2000番作品として刊行された沼野充義訳の『ソラリス』は、国書刊行会から2004年に出た単行本の文庫化。日本の読者に長く親しまれてきた飯田規和訳『ソラリスの陽のもとに』は、一部が削除されたロシア語版からの重訳だったので、今回ようやく、ポーランド語からの完訳版が文庫で手軽に読めるようになった。印象がずいぶん違うので、旧版で読んだ人も、この機会にぜひ完訳版で再読してみてください。
ソラリス  / スタニスワフ・レム
ソラリス
  • 著者:スタニスワフ・レム
  • 翻訳:沼野 充義
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(432ページ)
  • 発売日:2015-04-08
  • ISBN-10:4150120005
  • ISBN-13:978-4150120009
内容紹介:
惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいった… もっと読む
惑星ソラリス――この静謐なる星は意思を持った海に表面を覆われていた。惑星の謎の解明のため、ステーションに派遣された心理学者ケルヴィンは変わり果てた研究員たちを目にする。彼らにいったい何が? ケルヴィンもまたソラリスの海がもたらす現象に囚われていく……。人間以外の理性との接触は可能か? ――知の巨人が世界に問いかけたSF史上に残る名作。レム研究の第一人者によるポーランド語原典からの完全翻訳版。

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初出メディア

西日本新聞

西日本新聞 2015年6月8日

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