書評

『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社)

  • 2018/05/04
我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち / 川端 裕人
我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち
  • 著者:川端 裕人
  • 監修:海部 陽介
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(288ページ)
  • 発売日:2017-12-14
  • ISBN-10:4065020379
  • ISBN-13:978-4065020371
内容紹介:
地球上に存在した「人類」は我々ホモサピエンスだけではない。彼らはなぜ滅んだのか。我々はなぜ生き残ったのか。人類学の最新成果!

フローレス原人発掘の興奮

ちょっと不思議なタイトルである。とりようによっては哲学的な問いに答えようとする書物か、とも思わされる。それがブルーバックスの一書だとしたら。そう言えば、装幀(そうてい)もいつものブルーバックスと少し違う印象を与える。

さて、この「我々」は、実は現生人類のこと、現生人類がこの世に出現するのが数十万年前とするなら、ちょうどその頃までは「ヒト」属は、何種類もの共存状態だったのに、現生人類(ホモ・サピエンス)の世代になると、種としては「孤独」になった。そこにはどのような事情があったのか、それを最新の知見を元にしながら、解き明かすのが本書ということになる。

著者は、作家としても知られるが、科学の素養が広く深い上に、本書は人類史の研究で世界的に知られる監修者海部氏との共同作業(発掘現場の検証など)と、海部氏の助言に基づいて書かれた珍しい書物でもある。

冒頭に、アジアにおける人類史上の新風を予感させる記述が置かれた後、第一章で、著者が、海部氏から、人類史の現状についての、教科書風の手ほどきを受ける、という形で、一応の準備作業が行われる。猿人、原人、旧人、新人という大まかなとらえ方(ここでは、猿人にさらに「初期の」それと、通常のそれという二つの区別が与えられているが)は、誰もがどこかで記憶に止(とど)めている話だろうが、それらの正確な特徴などが、改めて浮き彫りにされる仕掛けになっている。旧人までは、各地域に少しずつ違った種族集団が存在していて、かつては、それぞれの地域で新人へと進化したという説が有力だったが、新人だけは、アフリカに誕生した種族集団が、各地域に広く展開していって、それぞれの地域で人種を構成するようになった、という単一起源説が紹介される。

そして大切なことは、新人が各地域に展開した際に、そこには旧人や、場合によっては原人も共存していたという点である。有名なネアンデルタール人はヨーロッパに展開していた旧人の一種だが、最近の知見によると、アフリカからヨーロッパに進出した新人との間には交雑もあったという。

一方、二百万年ほど前に生まれた原人が、アジアでは北京原人、ジャワ原人など各種の種族集団として進化することになるが、本書の記述は、その中で、ジャワ原人を中心として展開される。例えばジャワの同じ地域から発掘される化石でも、年代とともに変化していく過程が、歯に注目するだけでも、明らかになるという。歯の化石のなかには、現代人とほぼ同じ大きさにまで、縮小したものが見られるからだ。

さらに、インドネシアのフローレス島で今世紀になって出土した化石は、それまでの常識を覆すものだった。フローレス原人と名付けられたが、この集団は原人でありながら、五万年前から一万数千年ほど前まで生息していた、と考えられること、個体が極めて小柄(身長は一メートルほど)であること、また、ほぼ完全個体が出土している、などの点で、人類史の研究に極めて特異な意味を持つものとなった。著者は化石が発掘された現場の洞窟も訪れている。さらに。同じ島の別の場所から、フローレス原人の祖先とも言うべき化石が見つかった。このエピソードを巡る著者の記述は異様な迫真感がある。

紙幅がないので、これ以上の紹介は止(や)めるが、著者自身の撮影になるものを含めて、挿入された写真も豊富。歯切れのよい文体も魅力的で、知的興奮を誘う好著としてお勧めする。
我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち / 川端 裕人
我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち
  • 著者:川端 裕人
  • 監修:海部 陽介
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(288ページ)
  • 発売日:2017-12-14
  • ISBN-10:4065020379
  • ISBN-13:978-4065020371
内容紹介:
地球上に存在した「人類」は我々ホモサピエンスだけではない。彼らはなぜ滅んだのか。我々はなぜ生き残ったのか。人類学の最新成果!

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毎日新聞 2018年4月8日

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