書評

『ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎』(東洋経済新報社)

  • 2017/09/14
ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎 /
ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2004-09-01
  • ISBN-10:4492313427
  • ISBN-13:978-4492313428
内容紹介:
社会的なネットワークとそこから生まれる規範、価値、理解、信頼は、ソーシャル・キャピタルとして、人々の間の協力を推進し共通の目的を実現しやすくする。健全な市民社会は政治経済の活力をどう高めるか、コミュニティや相互連帯は現代社会でどのような役割を果たすべきか、現代経済学は方法論的個人主義に偏りすぎていないか、などの問題が国際的に注目を集めており、内閣府経済社会総合研究所の国際フォーラムでも多角的な視点から活発な討議が行われた。こうした議論を踏まえつつ、21世紀経済社会のガバナンスのあり方を展望する。

信頼や市民的結びつき衰退への懸念

アメリカでは好景気がほどほどに持続しており、体制への批判といえば対イラク戦争が焦点であった。とはいえブッシュ再選で国内的には支持が上回り、不満は抑えられたかに見える。ところが経済の底上げに無理したせいで生じた社会のひずみには、危機感を抱く人が少なからずいるらしい。市民的な結びつきが衰退していることを懸念するR・D・パットナムもその一人である。

社会学者R・ベラーらも80年代半ばのアメリカについて、個人主義が先鋭化したため他者との相互連帯やコミュニティーの意味を見いだす「心の習慣」が揺らいでいるというインタビュー調査を発表したが、パットナムは社会的な信頼関係や市民的な積極参加を「ソーシャル・キャピタル」と呼び換え、95年にその減退が民主主義のあり方や経済・社会に広く亀裂を及ぼしつつあると警告して話題を呼んだ。

本書に訳出された論文のタイトルが印象的だったからである。題して「ひとりでボウリングをする」。93年に少なくとも一度はボウリングに行ったアメリカ人は80年から10%も増え、連邦議会議員選挙で投票する人を三分の一も上回ったというのに、クラブのメンバーとしてボウリングする人はその間に四割も減ったと指摘したのである。それは仲間と飲食するビールやピザの売り上げを減らしただけでなく、会話するチャンスも奪い、ソーシャル・キャピタルを減じた。

本書にはパットナムを導きの糸とする論文が収められている。宮川公男はアメリカでホワイトカラーや熟練技能者らから成る中産階級や産業集積を持つ地域コミュニティーが瓦解(がかい)した理由として、グローバリズムとマネー経済化のもとで企業が生産能力への投資を止(や)めて投機的ベンチャーに転身したことを挙げる。

社会全般に対する「道徳的信頼」の重要性を説くE・M・アスレイナーによれば、日本は経済的不平等ゆえに信頼を高められないでいるという。アメリカのたどった道程を、日本も追っている。所得格差が顕著になった昨今、傾聴すべき点満載の論集だ。
ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎 /
ソーシャル・キャピタル―現代経済社会のガバナンスの基礎
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2004-09-01
  • ISBN-10:4492313427
  • ISBN-13:978-4492313428
内容紹介:
社会的なネットワークとそこから生まれる規範、価値、理解、信頼は、ソーシャル・キャピタルとして、人々の間の協力を推進し共通の目的を実現しやすくする。健全な市民社会は政治経済の活力をどう高めるか、コミュニティや相互連帯は現代社会でどのような役割を果たすべきか、現代経済学は方法論的個人主義に偏りすぎていないか、などの問題が国際的に注目を集めており、内閣府経済社会総合研究所の国際フォーラムでも多角的な視点から活発な討議が行われた。こうした議論を踏まえつつ、21世紀経済社会のガバナンスのあり方を展望する。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2004年11月14日

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