『週刊モーニング』に連載中のマンガ「ナニワ金融道」をベースにした、金銭トラブルをめぐる法律講座だ。と言っても、ありきたりの法律解釈ではない。ヤクザ絡みの紛争の実態や抜け道、奥の手をバッチリ解説する、裏街道の指南書である。
全部で十四話。原作のマンガは挿絵がわりで、意外に読みごたえのある本文だ。サラ金の「書換え」、「まわし」の手口。強制執行や競売のウラおもて。いいことずくめの自己破産。白紙委任状や念書の落とし穴。裁判所の裏をかく「合法」的妨害手段のかずかず。どれも、関係「ギョーカイ」の人々の「ジョーシキ」であり、彼らが公然とは口にしない真実である。
となれば、そんな内情に接する機会の少ないサラリーマンが、喜んで本書を手にするのも当然だろう。これはもう、立派な教養書である。
加えて本書は、日本の法文化の一級資料だと私は思う。このまま翻訳しても、日本を理解するのにうってつけの書物として注目を集めそうだ。
本書は金融トラブルの実例を、面白おかしく追いかけているだけではない。そのリアリズムの根底に、傾聴すべき批判がある。
《端的にいえば法律そのものが債権者に圧倒的に不利にできている》、《問題は手続法(裁判法と強制執行法)だ》、《債権者が裁判に訴えるまで持ちこたえられれば、これはもう勝ったも同然なのである》(エピローグ)
まるでブラックユーモアだが、これが実態だ。裁判に勝っても債権取り立ての役に立たない。司法が無力な分だけ、ヤクザの出番が増える。こうした病根に人々の目を向けさせる、得難い書物ではある。
ひとつだけ文句を言えば、著者はだれなのか? 青木雄二「監修」とあるからには、本文を書いたライターがいるのだろう。手抜かりのない仕上がりだけに、著者として名前を掲げてあるとなおよかった。
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