書評

『日本の不平等』(日本経済新聞社)

  • 2018/07/20
日本の不平等 / 大竹 文雄
日本の不平等
  • 著者:大竹 文雄
  • 出版社:日本経済新聞社
  • 装丁:単行本(306ページ)
  • 発売日:2005-05-24
  • ISBN:4532132959
内容紹介:
なぜ、所得格差は拡大したのか。技術革新、グローバル化、それとも高齢化が要因か。日本の所得格差を、データを駆使して実証分析。再分配政策、世代サイズ、成果主義、年功賃金など注目のトピックにも幅広くアプローチする、不平等問題研究の決定版。

格差論ブームの仕掛け

バブル経済がはじけたあと、ある経済学者が大雑把(ざっぱ)な統計データをもとに、日本はアメリカより不平等な経済格差社会だといいはじめた。それ以来、格差拡大論はブームになった。勝ち組・負け組論などの格差本ジャンルさえできている。小泉政権下でますます格差がひろがっています、という選挙用格差節もある。

著者は、単純で、表面的な統計の利用ではなく、学歴や年齢などにカテゴリーを分解しながら、所得格差拡大説を追い詰めていく。たしかにみかけ上、世帯による所得格差は拡大している。しかし、学歴や年齢など同じカテゴリー内部での所得格差は拡大してはいない。この矛盾をどう解くかが著者の苦心したところである。勤労所得のない高齢者が独立世帯をもつことによって、世帯所得分布の見せかけの不平等化を大きくさせた、というのが著者による知見である。逆にいえば、かつて日本社会が平等にみえたのは、所得が比較的平等な若年世帯が多かったことによる。賃金格差についても、1980年代の格差は、労働者の高齢化によるもので、90年代以降は、格差はそれほど変化していない。米英で観察された急激な賃金格差の拡大は日本にはみられないという。

にもかかわらず、所得格差感情はひろがっている。著者の仮説は、人々の格差拡大意識は、賃金や収入の現実の格差拡大よりも、失業者やホームレスなどの増大がシグナルとなっているのではないか、というものである。データをひとつひとつ吟味し、いえること、いえないことを弁別していく著者の研究姿勢は実証研究の鑑(かがみ)である。

本書を読めば近年の格差拡大論ブームの仕掛けもうかびあがってくる。政治家や行政は解決すべき社会問題を、ジャーナリズムは危機を煽(あお)るトピックがほしい。これと学者たちの世にうけたい願望の共謀関係によるものではないかとさえおもえてくるのである。

【この書評が収録されている書籍】
学問の下流化 / 竹内 洋
学問の下流化
  • 著者:竹内 洋
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:単行本(302ページ)
  • 発売日:2008-10-01
  • ISBN:4120039838
内容紹介:
うけ狙いのポピュリズム化とオタク化の進む学界。紋切り型の右翼・左翼から抜け出せない論壇。書店にあふれるお手軽な「下流」新書…書き手として、読み手として考える「教養主義の没落」後の教養。

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日本の不平等 / 大竹 文雄
日本の不平等
  • 著者:大竹 文雄
  • 出版社:日本経済新聞社
  • 装丁:単行本(306ページ)
  • 発売日:2005-05-24
  • ISBN:4532132959
内容紹介:
なぜ、所得格差は拡大したのか。技術革新、グローバル化、それとも高齢化が要因か。日本の所得格差を、データを駆使して実証分析。再分配政策、世代サイズ、成果主義、年功賃金など注目のトピックにも幅広くアプローチする、不平等問題研究の決定版。

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初出メディア

読売新聞

読売新聞 2005年9月4日

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