書評

『女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化』(中央公論新社)

  • 2022/01/24
女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化 / 稲垣 恭子
女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化
  • 著者:稲垣 恭子
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(246ページ)
  • 発売日:2007-02-01
  • ISBN-10:4121018842
  • ISBN-13:978-4121018847
内容紹介:
旧制高等女学校の生徒たちは、戦前期の女性教養層を代表する存在だった。同世代の女性の大多数とはいえない人数であったにもかかわらず、明治・大正・昭和史の一面を象徴するものだったことは… もっと読む
旧制高等女学校の生徒たちは、戦前期の女性教養層を代表する存在だった。同世代の女性の大多数とはいえない人数であったにもかかわらず、明治・大正・昭和史の一面を象徴するものだったことは疑いない。本書は、彼女たちの学校教育、家庭環境、対人関係の実態を検証する試みである。五〇年弱しか存在しなかったにもかかわらず、消滅後も、卒業生たちの思想と行動をコントロールし続けた特異な文化の再発見。

したたかで無垢な女学生文化

『女学校と女学生』を読む


高等女学校(戦前女子の実質的最高学府)生に代表される女学生が社会のなかで一定の厚みを持ち始める明治末あたりから、女学生ネタが新聞や雑誌をにぎわせ続けた。

女学校進学のために上京したが、虚栄にそまり、お金ほしさに富豪の妾となった女学生。誘惑され、身ごもり、捨てられる女学生などの「堕落女学生」論。女学生の読書好きも芸術への憧れも浅くて軽薄な代物だと非難する。

しかし、この種の女学生論は、おじさんがおじさんのために論じたものである。だから語り、消費するものたちの欲望と不安を表出しているにすぎない、と著者は喝破する。当の女学生のほうは、おじさん的女学生論をすりぬけ、ときにはそれを利用しながら、独自の世界を作り続けてきた。

本書(稲垣恭子『女学校と女学生――教養・たしなみ・モダン文化』中公新書、二〇〇七年)は、そうした、したたかでもあり、無垢でもある女学生文化を彼女たちの手紙や日記、エス(女同士の友愛)などを通じて、拾い上げ、再現する。彼女たちの間に独特のサブカルチャーが形成されていたからこそ、卒業後もお互いをファーストネームで呼び合う仲となり、女学校という「思い出共同体」がいつまでも続いたのだ、という。

女学生によるニックネームや隠語などにも触れていて思わず笑ってしまう。「ナフタリン」は「虫の好かない教師」という按配である。しかし、おじさんたちは女学生文化ののぞき見を楽しんでばかりもいられない。

学問と読書に偏った男の教養が実は狭く田舎臭いものであることなど、男インテリへの鋭い棘が要所におかれている。「軽薄でもよくってよ」とでもいいたげな、お茶目でちょっぴりコケットリーな女学生像をよみがえらせ、ほろ甘さとほろ苦さを仕掛ける筆力がみごとである。
女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化 / 稲垣 恭子
女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化
  • 著者:稲垣 恭子
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(246ページ)
  • 発売日:2007-02-01
  • ISBN-10:4121018842
  • ISBN-13:978-4121018847
内容紹介:
旧制高等女学校の生徒たちは、戦前期の女性教養層を代表する存在だった。同世代の女性の大多数とはいえない人数であったにもかかわらず、明治・大正・昭和史の一面を象徴するものだったことは… もっと読む
旧制高等女学校の生徒たちは、戦前期の女性教養層を代表する存在だった。同世代の女性の大多数とはいえない人数であったにもかかわらず、明治・大正・昭和史の一面を象徴するものだったことは疑いない。本書は、彼女たちの学校教育、家庭環境、対人関係の実態を検証する試みである。五〇年弱しか存在しなかったにもかかわらず、消滅後も、卒業生たちの思想と行動をコントロールし続けた特異な文化の再発見。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

週刊東洋経済

週刊東洋経済 2007年3月31日号

1895(明治28)年創刊の総合経済誌
マクロ経済、企業・産業物から、医療・介護・教育など身近な分野まで超深掘り。複雑な現代社会の構造を見える化し、日本経済の舵取りを担う方の判断材料を提供します。40ページ超の特集をメインに著名執筆陣による固定欄、ニュース、企業リポートなど役立つ情報が満載です。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
竹内 洋の書評/解説/選評
ページトップへ