書評

『ハーバード流歴史活用法―政策決定の成功と失敗』(三嶺書房)

  • 2018/08/09
ハーバード流歴史活用法―政策決定の成功と失敗 / R.E. ニュースタット,E.R. メイ
ハーバード流歴史活用法―政策決定の成功と失敗
  • 著者:R.E. ニュースタット,E.R. メイ
  • 翻訳:斎藤 元秀,滝田 賢治,阿部 松盛
  • 出版社:三嶺書房
  • 装丁:単行本(432ページ)
  • 発売日:1996-10-01
  • ISBN-10:4882940841
  • ISBN-13:978-4882940845
内容紹介:
メイは、『歴史の教訓』のなかで「統治者にとって歴史は、無限の宝庫として眠っている」と書いた。過去そして歴史は、ただ単にそこに孤立してあるのではなく、未来に問い掛けながら存在してい… もっと読む
メイは、『歴史の教訓』のなかで「統治者にとって歴史は、無限の宝庫として眠っている」と書いた。過去そして歴史は、ただ単にそこに孤立してあるのではなく、未来に問い掛けながら存在しているのである。本書のなかでは、アメリカの内外政策の多数の政策決定過程の事例研究を綿密に検討し、歴史の「利用」と「誤用」が俎上にのぼる。そのうえで、「経験の利用」、歴史の最善の利用法が提示されている示唆的な書物である。

ベトナム戦争はなぜ失敗したか

題してUses ofHistory(歴史の活用)。著者自らが断っているように、決してHistory(歴史)ではない。ハーバード大学ケネディ行政大学院という専らミッド・キャリアの学生を相手とするプロフェッショナル・スクールで、多年教鞭(きょうべん)をとってきた二人の令名高い学者による問題提起の書だ。

外交史家のアーネスト・メイと、政治学者のリチャード・ニュースタット。二人の最初の学問的関心は、アメリカにとってのあの戦争、そうベトナム戦争における“ベスト・アンド・ブライテスト”の失敗の原因を探ることにあった。当時の担当者へのインタビュー調査をくり返しているうちに、二人は政策決定にあたって、失敗するも成功するもそこに一つの「構造」があることに気がついた。

それは何か。政策決定にあたって当事者は常に気軽に、過去の事例に頼るという事実に他ならない。それも甚だ安易に恣意(しい)的に、虚実曖昧(あいまい)なる過去の事例にだ。しかも彼等は現実の決定への関与に優るとも劣らないくらい過去の決定に係わることの危険性を、まったく自覚していない。だとすれば、彼等のこうした行動様式をまるごと分析してみよう。その上で誰もが無意識に陥るこの行動様式をパターン化し、あらかじめ自覚させよう。

実践の手引きたる本書は、十年前の刊行当時(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1996年)すでに五十に集約された事例ケースをもとに考察されている。手っとり早く理解したいむきには、「序文」と「第一章」のキューバ・ミサイル危機の事例を読んだ上で、巻末のアペンディクス(付録)の「ミニ・メソッド」と「事例一覧」に目を通すことを奨める。こうして充分なウォーミングアップの後、まずは外交事例(三章の朝鮮戦争、五章のベトナム戦争)から入って、他の問題へと進もう。本書が示す発想に慣れていない日本人読者には、このような読み方のレッスンが必要かもしれない。

もっとも二人が導き出す歴史事例の活用法は、いずれもコロンブスの卵で常識的なものばかりだ。曰くアナロジーに惑わされるな、曰く事実と推測を区別せよ、曰く時間の流れにのせよ、曰く位置づけを明確にせよ……。だが腰だめの決定を常に迫られている当事者にとって、この種のメソッドがいかに生かされていないか、あなたもドキッとして、そのことに気付く一人かもしれない。臼井久和ほか訳。

【この書評が収録されている書籍】
本に映る時代 / 御厨 貴
本に映る時代
  • 著者:御厨 貴
  • 出版社:読売新聞社
  • 装丁:単行本(305ページ)
  • ISBN-10:4643970472
  • ISBN-13:978-4643970470
内容紹介:
『吉田茂書翰』から『ゴーマニズム宣言』まで「日本」を知り、「自分自身」を知る140冊。気鋭の政治学者が放つ渾身の社会時評&読書ガイド。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ハーバード流歴史活用法―政策決定の成功と失敗 / R.E. ニュースタット,E.R. メイ
ハーバード流歴史活用法―政策決定の成功と失敗
  • 著者:R.E. ニュースタット,E.R. メイ
  • 翻訳:斎藤 元秀,滝田 賢治,阿部 松盛
  • 出版社:三嶺書房
  • 装丁:単行本(432ページ)
  • 発売日:1996-10-01
  • ISBN-10:4882940841
  • ISBN-13:978-4882940845
内容紹介:
メイは、『歴史の教訓』のなかで「統治者にとって歴史は、無限の宝庫として眠っている」と書いた。過去そして歴史は、ただ単にそこに孤立してあるのではなく、未来に問い掛けながら存在してい… もっと読む
メイは、『歴史の教訓』のなかで「統治者にとって歴史は、無限の宝庫として眠っている」と書いた。過去そして歴史は、ただ単にそこに孤立してあるのではなく、未来に問い掛けながら存在しているのである。本書のなかでは、アメリカの内外政策の多数の政策決定過程の事例研究を綿密に検討し、歴史の「利用」と「誤用」が俎上にのぼる。そのうえで、「経験の利用」、歴史の最善の利用法が提示されている示唆的な書物である。

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