書評
『政 まつりごと』(読売新聞社)
読み手の目線で永田町追う
政治はどこへ行ってしまったのだろう。秋雨の中で霧にかすんでよく見えない。永田町も霞が関ももうウンザリ。総選挙の結果を見ても何も変わらない。ますます遠のく政治。そのうち政治の存在自体を忘れてしまうのではないかしら(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は1996年)。こんな気分を察知し、いつのまにか遠くなった政治を多面的に捉える試みが一冊の本になった。主体は読売新聞社政治部の“政”企画班。がんらい新聞の企画ものと言えば、これでもかこれでもかの政界裏情報の練り合わせか、大むこうからの政治批判のキャンペーンか、そのどちらかと相場が決まっていた。いずれの場合も、書き手は読み手よりも常に高い所にいた。だがこれではそもそも政治の存在そのものを疑い始めている読み手に、とても読んではもらえぬ。
どうしたらよいか。実は自分たちも政治がわからなくなったという正直な気持ちに立脚したところが、この企画の特色となった。読み手と同じ目線で、学者やジャーナリストや政治家に迫っていく。もちろん昨年夏の参議院選から本年秋の総選挙直前まで、タイムリーに様々の事象が扱われている。オウムとくれば「政治と宗教」、予算とくれば「権益の構図」、村山退陣とくれば「検証・連立政治」といった具合だ。
しかし貫く視点は一つ。「政治っていったい何だろう?」これに尽きる。では書を捨て町に出かけたフィールドワークの成果は如何。やはり面白いのは政治家のホンネや素顔とも言うべき発言だ。どうやら彼等も政治がわからなくなってしまったと見える。それでも政治からは逃げられない。だとすれば、その日暮らしの政治に汲々(きゅうきゅう)とする以外に仕方がないではないか。彼等のいら立ちが手にとるようによくわかる。
本書の圧巻は「国のすがた」だ。短い章立ての中で、今日本の政治が直面している課題を日米安保、行政改革など手際よく整理している。政治が遠くなったのは、善きにつけ悪しきにつけ日本という国のすがたが遠くなったからではないのか。わからない政治を追ってきて、「日本って何?」という古くて新しい課題を発見した。
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