書評

『歴史手帳2019年版』(吉川弘文館編集部)

  • 2018/12/02
歴史手帳2019年版 / 吉川弘文館
歴史手帳2019年版
  • 著者:吉川弘文館
  • 出版社:吉川弘文館編集部
  • 装丁:新書(166ページ)
  • 発売日:2018-10-16
  • ISBN:4642098453
内容紹介:
日記を兼ねたコンサイス読史備要として毎年歴史家をはじめ、教師・ジャーナリスト・作家・学生・歴史愛好者等、多数の方々が愛用。

二つの壬生と『歴史手帳』の意外な関係

いつごろから『歴史手帳』を持ちはじめたかの記憶はない。かなり早くからではないかと思う。というのは、私は室内で研究しているよりも、外に出ている時間の方が多いのではないかとまわりからいわれるほど、現地調査を重視してきたからである。外に出るとき、重い辞典類などは持っていけないので、必然的に『歴史手帳』一冊だけということになる。

調査や講演などの用で現地に行ったとき、初めて行くようなところは、できるだけ泊まるように計画を立てている。そのとき、『歴史手帳』が役にたつのである。『歴史手帳』には、日ごとに、どこでどのような祭りや年中行事があるかが記入されており、計画をたてるとき、珍しい祭りや年中行事があったりすると、それに日程を合わせたりしている。

現在、国の重要無形民俗文化財に指定されている広島県山県郡北広島町の「壬生(みぶ)の花田植」は、『歴史手帳』をみていて、花田植のある日程をつかみ、その前後、近くの仕事を入れるということをして、念願の花田植をみることができた。民俗学者ではないので、調査などというものではなく、単なる一観光客でしかないが、昔の絵巻物などに描かれているのと同じような風景がいまもみることができ、思いは中世の田植へと飛んでいた。

また、同じ「壬生」という字がつくが、京都の壬生寺で行われる「壬生大念仏狂言」も、『歴史手帳』のおかげでみることができた。京都での用があったとき、たまたま少し時間が空いた。もっていた『歴史手帳』をパラパラめくっていたら、ちょうどその日「壬生大念仏狂言」の日にあたっていたのである。すぐみにいったことはいうまでもない。

「文化施設一覧」も役立たせてもらっている。地方に行って、電車の待ち時間で二~三時間余裕ができることがある。そのようなとき、駅の観光案内所に行っても紹介されるのは公園とか食べ物屋さんで、どうということもない。そのとき、「文化施設一覧」のページを開くと、博物館情報が載っている。見に行って、珍しい展示物にぶつかることもあり、研究のヒントをもらうことも少なくない。

あと、もう一つ私が大いに利用してきたのは「日本地図」のページである。地方での講演などのとき、準備万端で出かけても、講演直前になって、たとえば、「豊前と豊後の境はどこだっけ?」と焦ることがあったりする。そのとき、「日本地図」のページを開いて確認したりということは結構やってきた。今回のリニューアルで「日本地図」は新たな付録に差し替えられるとのこと。残念ではあるが、付録全体が充実される様子なので、それに期待したい。

最後に、今回、文庫版の大きさにリニューアルされるということで、大賛成である。『歴史手帳』は、たしかに手帳とはいいながら、ポケットに入れるには厚すぎるし重すぎる。どうせ鞄に入れて持ち歩いているのだから、文庫版になってもそれは構わない。むしろ、文字も大きくなるということで、老眼鏡を併用している私としてはありがたい。

(おわだ てつお・日本中世史)


過去を振り返る資料と未来の予定を書きこむ手帳が一冊に!?

手帳には専門手帳というものがあって、『歴史手帳』と『天文手帳』が双璧であると新刊書店の研修で教わった。やがて歴史書の担当になって実際に売れる様子を見ながらも、どう使うものなのかよくわからなかった。過去を振り返る資料と未来の予定を書きこむ手帳が一冊になっているとは、どういうことだろうか。江戸幕府の老中一覧を、毎日持ち歩く必要があるのか?

やがて異動で沖縄に来て、『沖縄手帳』というものを知った。日の出日の入、月の満ち欠け、潮の満ち干といった情報のほか、旧暦とそれにもとづく行事の日程が載っている。沖縄に血縁のない私は特に用事はないものの、旧暦は把握しておきたい。旧正月、旧盆は祝日扱いになって業者も休むし、行事前にはその準備の本が売れたりもするから。私なんかが持ってもいいのかしら、と思いながらも『沖縄手帳』を使うようになった。

ウィークリーのページに過去の沖縄の出来事が書いてあるのが面白くて、毎日見ている。これを書いている六月四日は「デパート沖縄三越(当時大越百貨店)創業(一九五七年)」。翌六月五日は「大交易時代の琉球王尚泰久(しょうたいきゅう)死去(一四六〇年)」。一日で四九七年も飛んでいる。先日、三越は今年の九月末で閉店すると発表された。きっと来年の『沖縄手帳』に載るだろう。「デパート沖縄三越閉店(二〇一四年)」。

そんな沖縄の歴史の横に書き入れた私の予定も、過去になる。沖縄で起こった出来事のひとつになっていく。

『歴史手帳』を使う人たちは、日々どんなことを感じているのだろう。ウィークリーのページには各地の行事やお祭りが控えめに並んでいるだけで、歴史への関心というよりは旅情をそそられる。しかし本来の手帳のページが終わると、あとの半分はひたすらに歴史だ。年表、官位相当表、文化施設一覧。時代も地理も果てしないスケールを網羅していて、『沖縄手帳』に比べるとなにもかも遠く感じられる。そんな『歴史手帳』を使いこなし身につけようとすることで、自分のスケールも大きくなっていくのだろうか。

今年、『歴史手帳』はリニューアルする。これまでより日本史に力を入れると聞いた。文化財をビジュアルで紹介するページも新たにできるということで、より親しみやすくなりそうだ。

今までの私は目の前の沖縄を知ることで精一杯で、『歴史手帳』で暮らしていく自信がなかった。使いこなして歴史と地理の情報を生活に生かしている人を想像しては、遠い存在だと諦めていた。それでも、新しくなった『歴史手帳』なら持てるかもしれない。最初はどぎまぎしながら持ち始めた『沖縄手帳』も、五年使って旧暦と気候の関わりがなんとなくわかってきた。『歴史手帳』にもきっとなじめるだろう。『沖縄手帳』と併用したら視野が広がって、発見もありそうだ。

『歴史手帳』を使ってみようと決めただけで、来年が楽しみになった。

(うだ ともこ・古書店主)


[書き手]
小和田 哲男(おわだ てつお)(静岡大学名誉教授)
専攻は日本中世史、1944年静岡市生まれ。戦国時代を中心に執筆、講演活動のほかに、テレビ出演やNHK大河ドラマの時代考証を担当するなど幅広い活動をされている。

宇田 智子(うだ ともこ)(古書店主)
元書店員、現在は沖縄で「市場の古本屋ウララ」の店主を勤めながら、新聞・雑誌への執筆活動を行う。第7回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」受賞。
【市場の古本屋ウララ】 http://urarabooks.ti-da.net/

(原文は、『歴史手帳2015年版』刊行時(2014年10月)に雑誌『本郷』に掲載されました)
歴史手帳2019年版 / 吉川弘文館
歴史手帳2019年版
  • 著者:吉川弘文館
  • 出版社:吉川弘文館編集部
  • 装丁:新書(166ページ)
  • 発売日:2018-10-16
  • ISBN:4642098453
内容紹介:
日記を兼ねたコンサイス読史備要として毎年歴史家をはじめ、教師・ジャーナリスト・作家・学生・歴史愛好者等、多数の方々が愛用。

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初出メディア

本郷

本郷 2014年9月号

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