書評

『蟹工船・党生活者』(新潮社)

  • 2019/01/13
蟹工船・党生活者 / 小林 多喜二
蟹工船・党生活者
  • 著者:小林 多喜二
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:ペーパーバック(288ページ)
  • 発売日:1953-06-30
  • ISBN:4101084017
内容紹介:
海軍の保護のもとオホーツク海で操業する蟹工船は、乗員たちに過酷な労働を強いて暴利を貪っていた。“国策"の名によってすべての人権を剥奪された未組織労働者のストライキを扱い、帝国主義日本の一断面を抉る「蟹工船」。近代的軍需工場の計画的な争議を、地下生活者としての体験を通して描いた「党生活者」。29歳の若さで虐殺された著者の、日本プロレタリア文学を代表する名作2編。

今なぜ『蟹工船』なのか

初版は八十年前の一九二九年。新潮社では毎年五千部を増刷してきたが、二〇〇八年は六月四日現在で累計二十五万部という。今なぜ大ブームなのか(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2008年)。

二〇〇〇年に作家の荒俣宏が『プロレタリア文学はものすごい』(平凡社新書)を書いた。プロレタリア文学についての荒俣流の読み方が開陳されていた。プロレタリア文学は、ホラー小説であったり、ポルノ小説でもあったりするのだ、と。そんな読み方もできるのかと思ったものだが、そのときは、「蟹工船」がブームになったわけではない。

ベストセラーの仲間入りをするには、社会問題としての現代的意味づけが必要である。少数の読書人は変化球を好むが、読書人の多数派は直球好みの社会派であるからだ。そう考えれば、『毎日新聞』や『朝日新聞』が現代のワーキングプアの労働環境との関連で「蟹工船」を紹介し、その意味づけをしたことが大きい。

「蟹工船」は二人の漁師がデッキの手すりに寄りかかって「おい地獄さ行(え)ぐんだで!」で始まる。凄惨な労働をこれでもかというほどに描いている。監督は火の中においた鉄棒を働きの少ない漁夫の身体にあてて懲らしめる。漁夫の寝床のあるところは、蟹の臭いが充満し不潔きわまりない。「糞壼」とよばれている。ボロ船に集められた季節労働者はたしかに現代のワーキングプアのようである。

しかし、本書はあくまでプロレタリア小説。3K(危険、汚い、きつい)だけを描いているのではない。「支那人」がロシア人をさして「ロシア、働かない人いない。ずるい人いない。人の首しめる人いない」というあたりが真骨頂である。

だが、いまどきの読者がこんなロシア(旧ソ連)像に真実性を感じるだろうか。

「蟹工船」とともに収められている小説が「党生活者」。軍需工場の共産党細胞がストライキの仕掛けをして成功する場面がある。「こうまでとは思わなかった! 大衆の支持って、恐ろしいもんだ!」。これもプロレタリア文学の要だが、このような共産党員のエリート意識にも時代を感じるはず。現代的インパクトと同時に時代を感じさせられる違和感。このあたりを読者はどう処理しているのだろうか。それを知りたくなる。


蟹工船・党生活者 / 小林 多喜二
蟹工船・党生活者
  • 著者:小林 多喜二
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:ペーパーバック(288ページ)
  • 発売日:1953-06-30
  • ISBN:4101084017
内容紹介:
海軍の保護のもとオホーツク海で操業する蟹工船は、乗員たちに過酷な労働を強いて暴利を貪っていた。“国策"の名によってすべての人権を剥奪された未組織労働者のストライキを扱い、帝国主義日本の一断面を抉る「蟹工船」。近代的軍需工場の計画的な争議を、地下生活者としての体験を通して描いた「党生活者」。29歳の若さで虐殺された著者の、日本プロレタリア文学を代表する名作2編。

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初出メディア

週刊東洋経済

週刊東洋経済 2008年6月21日

1895(明治28)年創刊の総合経済誌
マクロ経済、企業・産業物から、医療・介護・教育など身近な分野まで超深掘り。複雑な現代社会の構造を見える化し、日本経済の舵取りを担う方の判断材料を提供します。40ページ超の特集をメインに著名執筆陣による固定欄、ニュース、企業リポートなど役立つ情報が満載です。

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