書評

『ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法』(KADOKAWA)

  • 2019/02/23
ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法 / 落合 陽一,猪瀬 直樹
ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法
  • 著者:落合 陽一,猪瀬 直樹
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:単行本(192ページ)
  • 発売日:2018-10-31
  • ISBN:4041071860
内容紹介:
最注目の科学者が作家と議論した「2021」以後の日本のビジョン。

白熱の「ラリー」に希望の手ごたえ

メディアアーティストで三○代、筑波大准教授、デジタル企業のCEOでもある落合陽一氏と、作家で七○代、小泉政権で道路公団改革をやり遂げ、東京都の副知事と知事を務めた猪瀬直樹氏の、絶妙コラボ。データとビジョンにもとづき、日本の近未来をリアルに展望する。

日本のどこがどうダメか。客観的な条件と、人間の無策の両面がある。客観的な条件は、急速な高齢化(人口が「棺桶(かんおけ)型グラフ」になっている!)や産業の衰退、東京一極集中と地方の衰滅である。無策とは、中央省庁の縦割り、既得権益のしがらみや惰性である。これらを打破しよう。改革への熱い思いが、二人を結びつけている。

失われた三○年は、なぜ失われたのか。それは当初、これが長い停滞の始まりだと認識できなかったからだ。「景気対策」やばらまき(現状維持)で時間を無駄にした。それを教訓に、落合氏と猪瀬氏は、これからの三○年を大胆に構想する。

高齢化をどうする。テクノロジーがカギとなる。高齢者だらけの日本は、イノベーションの揺り籠だ。中国もすぐ高齢化する。介護や医療の先端技術は、世界で勝負できるだろう。

地方の衰退をどうする。一人当たり公費投入は、東京都目黒区の年三四万円に対して、農村部は一○○万円から二○○万円台にのぼる。このままを続けるのは無理だ。過疎地ならではのビジネスを起こすのはもちろん、まず集住も進めるべきだ。地方を肌感覚で知らないと、将来像を描けないと猪瀬氏は言う。

原発をどうする。東電など電力会社に任せないで、国に移管すべきだと落合氏は言う。移管すれば電力会社の経営は安定する。国が管理すれば、原発の存廃を決める場に国民の声が届くようになる。それに廃炉の技術は、世界中がノドから手が出るほど欲しいはず。ピンチはチャンスにすればいいのだ。

官僚支配をどうする。「ポリテック」がキーワードだと、落合氏は言う。社会を変えるのも未来の産業基盤も、テクノロジー。それを政治家や官僚はよく理解せよ。そしてポリシーを練れ。官庁の縦割りを乗り越えるのが、政治の本来の役割。むろん国民の後押しも大切だ。

落合氏と猪瀬氏のやりとりはテニスのラリーのようだ。対談でなく、往復書簡のスタイルが新鮮である。世代を超えた白熱のコミュニケーションに、希望の手ごたえが感じられる。

本書の議論の説得力は、両氏が、幻想を持たずに現実を見つめ、このどん底の日本と共に歩むと腹をくくっているためだ。どん底なら、はい上がれる。まだ残っているプラスの資産を、組み合わせるビジョンに目が向く。よくある未来予測のたぐいは、どこかでバブル時代の奢(おご)りを引きずっている。その奢りこそが、失われた三○年を招いてしまったのである。

本書は薄くて、すぐ読める。問題が大きいのにコンパクト。誰でも手に取れることが大切なのだ。まず議論の本質を理解しよう。詳しいことは後でゆっくり調べればよいのである。

唯一気になったのは、霞が関の官僚支配を《共産党の連合政権》だと、中国共産党に例えている点。言いたい気持ちはわかるが、中国共産党はまるで違った組織原理にもとづくので、この表現は誤解を招く。ここを除けば、あとは本書に「異議なし」である。

落合氏と猪瀬氏の真っ向からの議論に、まず応えるべきは政治家だ。でもそれは、残念ながら期待薄。ならば、国民がこの議論に応えて、選挙で意思表示をすることだ。さもないと「失われた六○年」が待っていることになる。
ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法 / 落合 陽一,猪瀬 直樹
ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法
  • 著者:落合 陽一,猪瀬 直樹
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:単行本(192ページ)
  • 発売日:2018-10-31
  • ISBN:4041071860
内容紹介:
最注目の科学者が作家と議論した「2021」以後の日本のビジョン。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2019年2月10日

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