後書き
『猪瀬直樹電子著作集「日本の近代」第5巻 ミカドの肖像』(小学館)
文庫版へのあとがき
自分とはなにか、と問う時期がある。無意識にでもそう問い始めるのは比較的早いころであろう。とりあえず自分が男ならまず初めにぶつかるのは、女とはなにか、という疑問である。これは解けない謎だけれど、そういう問いに立ち向かうと男である自分が少しわかってくるような気がした。それからさらに自分とはなにか、と問うた。他者であるのは女だけでなく、自分以外の人間がみなそうだということに遅ればせながら気づかされるのだ。
さらに問うた。自分が属している風土や文化と自分とを無関係に考えることはできない。だから日本人であることについて考える羽目に陥る。知らず知らずのうちに一定の思考パターンの呪縛に侵されている自分を、疑ってみる。堂々めぐりの輪のなかで出口がみつからない。本書では「視(み)えない制度」という言葉で表現してみた。
世界史というものを視野に入れ自分の位置を捉えるための方法論を模索した結果、『ミカドの肖像』が生まれた。僕の仕事を理解し励ましてくれた方々のおかげである。あらためて感謝の意を表します。
一九九二年二月 西麻布の寓居にて
猪瀬直樹
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